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31歳になった「ビリギャル」が書いた真実の物語

慶應大学卒業から就職、転職、結婚、離婚……人生は何があるか分からない!

丸山あかね ライター

あのビリギャルが本を出版!

小林さやかさん小林さやかさん

 塾講師である坪田信貴氏が『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40あげて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA刊)を出版し、ベストセラーとなったのは2013年のこと。2015年には『ビリギャル』として映画化され大ヒットを記録した。「聖徳太子」を「せいとくたこ」と読んで「(へんな名前で)超かわいそうじゃね?」と言っていた金髪ギャルの快挙に希望を与えられたという人もいることだろう。

 ビリギャルブームから5年、大学受験から約13年が過ぎた今年の3月、ついにビリギャル本人の本が発売され、早くも話題を呼んでいる。タイトルは『キラッキラの君になるために』(マガジンハウス刊)。著者の小林さやかさんに本書に寄せる思いを訊いた。

ビリギャル目線で書きました

 シンプルな装い、ナチュラルなメイク、人を包み込むような優しい笑顔……。

 取材場所に現れた小林さんに、ビリギャルだった人とは思えないと忌憚のないところを伝えると、「よく言われます。でも、私ももう31歳なので」と照れたように笑った。

――なぜ、いま本を書いたのですか?

 「坪田先生の本に書かれていることはすべて真実なのですが、あれは先生から見た私の大学合格物語。この本は、なにが自分をそうさせたのか、私目線で当時を振り返って書いたものです。私が受験を経て感じたことや確信していることを言葉にすることで大切なことがより深く伝わるといいなと。上手く書けたと思います。あと、略して『キラキミ』っていうタイトルも、メッチャ気に入ってます。この本を読んでくれたみんなにキラッキラに輝く人生を送って欲しい」

 「一番伝えたかったのは、挑戦する前から諦めないでってこと。ビリギャルっ地頭が良かっただけでしょって思ってる人がいるみたいなんですけど、そうじゃない。私が備えていたのはああちゃん(お母さん)が『さやちゃんは世界一幸せになれる子なのよ』って言って育ててくれたおかげで刷り込まれていた自己肯定力だけ。単純なのも取り柄かな。慶応大学って知らなかったけど、嵐の櫻井翔君とキャンパスで会えるかもと聞いて、すっかりその気になったんですからねぇ(笑)」

合格へと誘う6つの法則

 「大学受験で見つけた、6つの大切なこと」と題された第2章は本書の要。いわばビリギャル目線で考察する教育理論だ。六つとは、

① ワクワクする目標を「自分で」設定する
② 根拠のない自信を持つ
③ 具体的な計画を立てる
④ 目標をまわりに言いふらす
⑤ 憎しみをプラスの力に変えるべし!
⑥ コーチを、探せ

だ。随所にちりばめられた「人に笑われてもいい」「人は結果しか見ていない」といった説得力のある言葉の数々も心に響く。

 「講演会で超ウケのいい実用的な部分です。もちろん受験生に読んで欲しいし、親御さんや学校の先生などの教育者にも読んで欲しい。子供をやる気にさせるために、周囲の人たちがどんな言葉をかけ、どういう具合にサポートすればよいのかをできるだけ具体的に書きました」

ビリギャルモデルはなぜ自分だったのだろう?

『キラッキラの君になるために ビリギャル真実の物語』(マガジンハウス)『キラッキラの君になるために ビリギャル真実の物語』(マガジンハウス)
 「だ・である調」と「です・ます調」の入り乱れた自由な文体が心地よい。ところどころにギャル語の名残も。

 「私自身、偉っそうな文体で書かれた本って読む気がしないので、後輩に話しかけている感じで書くことを心掛けました。カッコつけても意味ないし。学生を対象にした講演でも要所要所で『クソつまんなくて』とか、『メッチャ、ムカついて』とか、わざと口悪く言ったりします。一瞬ざわつくけど、その後は私の話に耳を傾けてくれるようになるから」

 自分にしかできないことがある気がして、と話は続く。

 「ずっと思っているのは、なぜ『ビリギャル』は私だったんだろうってこと。ただ受験しただけなのに。そんな人はごまんといるのに……。結果、自分なんてダメだと思っている人の能力を最大限に引き出すことが、私の使命だと考えるようになりました。できない人の気持ちがわからないような優秀な人が書いた教育本よりも、元スーパー劣等生が書いた、自分はダメだと思っている子たちが共感できる本のほうが必要な気がしたんです。私がギャルだった時にこういう本と出会えていたら、どんなにか救われただろうなぁと思える本にしたかった」

ビリギャル、その後の物語

 本書では、念願叶(かな)って慶應大学に入学した小林さんの、その後の人生にも触れている。

 「ビリギャルで描かれているのは私の人生の一部でしかなくて、実は大学に進学したあとのことが重要なんですよね。それでいうと学歴はどうでもよくはないけど、わりとどうでもいいというか……」

 「高学歴であれば安泰だという発想は時代錯誤だと思います。生きていくうえで大事なのは人間力。私にしても、受験を通して自分を信じることができるようになったという点が大きくて、心に余裕ができれば周囲の人に感謝することだってできるし、他者の価値観を認めることもできますよね。学歴なくても生きてけるけど、人間力なかったら生きてくの難しいってことがよくわかりました」

 もし大学受験に目覚めなければ、どういう人生を送っていたと思うかと尋ねた。

 「ギャル時代の友達の多くが地元の名古屋から一歩も出ないでママになっているので、私もそのコースだったんだろうなと思います。それはそれで幸せになれた自信あるんですよ。ただ世界は視野が狭いままだったかも。私の場合、慶應時代の友達もいるし、ギャル時代の友達もいるという人間関係の幅の広さが強みかなと。いろいろな人がいて、さまざまな人生があって、幸せの形は一つじゃないという発見が私の人生を豊かにしてくれているのを感じます」

 大学卒業後は、就職、転職、結婚、離婚と波乱万丈な人生を辿(たど)った。

 「そこは正直に書きました。いいこともそうでないこともあるけど、順風満帆な人生だったら私は何も考えずに生きていて、絶対的にメンタルが弱かったと思うんです。正直、離婚はきつかった。でも今は自分の選択は間違っていなかったと思ってます」

 「離婚に限らず前はよく悩んでたけど、今は最悪だなと思う出来事に遭遇しても何かしらの意味があるんだろうなと捉えます。なので反省はしても悩んだりとかはないです。悩んでいる時間ってもったいない。見切り発車でもなんでもいいから前進したほうがいいというのが持論です」

実は家族の再生物語

小林さやかさん(ビリギャル、右)とお母さん(ああちゃん)小林さやかさん(ビリギャル、右)とお母さん(ああちゃん)

 本書を家族の再生物語として読む人もいることだろう。

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