吉﨑憲治&杜けあき取材会レポート
豪華出演者が贈る名曲選『吉﨑憲治&岡田敬二 ロマンチックコンサート』に向けて
山田詩乃 フリーライター


吉﨑憲治(左)と杜けあき=安田新之助撮影
宝塚歌劇団105周年、歌劇団を代表する音楽家・吉﨑憲治の作曲活動60周年、共に名作を生み続けてきた演出家・岡田敬二の活動55周年という節目の年である今年。『吉﨑憲治&岡田敬二 ロマンチックコンサート』が2019年6月1日(土)・2日(日)、大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演される。
二人が手掛けた「ロマンチック・レビューシリーズ」20作品を中心に、吉﨑が生み出した宝塚歌劇団の歴史に残る名曲の数々を、元トップスターや現役のスター達が一堂に会して繰り広げる宝塚ファン必見の舞台だ。
今も現役で宝塚歌劇一筋に作曲活動を続けている吉﨑憲治と、元雪組トップスターで吉﨑との思い出も深い女優杜けあきの取材会が梅田芸術劇場で行われた。
※吉崎の「吉」は上部が「土」
稽古場で切磋琢磨、ディスカッション
記者:吉﨑先生、60周年おめでとうございます。あらためて宝塚への思いなどお聞きできればと思います。
吉﨑:大学を卒業してすぐに宝塚に入りましたので、60年というとまさに私の人生そのものです。母親が歌や芸事が好きで宝塚に憧れ、娘達を宝塚に入れたのが縁の始まりで、私はその後、先輩の紹介で入りました。いまや宝塚は「私のお家」と言ってもいいぐらいです。
記者:杜さんはいかがでしょうか?
杜:今回、素晴らしい企画をご一緒出来て光栄です。私は吉﨑先生とは大作でタッグを組ませて頂くことが多く、稽古場で先生と切磋琢磨、ディスカッションしながら、「ここはこのタイミングでいってみようか?」など、一緒に創り上げる喜びを味わわせて頂きました。本当に芸術家の先生です。また、驚くのはいつお会いしても印象が変わらず、80歳を超えられても、いつまでも生き生きとされて若々しい。今も現役で若い世代の方ともお仕事をされているということをお聞きして、それが、若さの秘訣なんだろうなと納得しました。

吉﨑憲治(左)と杜けあき=安田新之助撮影
記者:ご一緒にディスカッションをされて作品を創り上げていかれた時のエピソードなどありますか?
吉﨑:ディスカッションしたというのは、お芝居の曲の時ですね。レビューは演出家の意向にあわせますが、お芝居の曲は「この曲だけど、こういう気持ちで歌いたい、こういう動きをつけたい」など演者の希望を大切にしますから。
杜:確かに先生とはお芝居の曲でご一緒することが多かったですね。『華麗なるギャツビー』『ヴァレンチノ』、そして『おもかげ草紙』で坂田藤十郎を演じた時など。先生の曲はたとえ短い曲でも起承転結のあるドラマ性を感じる大作で、そういった曲を歌わせて頂いて幸せでした。
吉﨑:私は歌詞をとても大切にしています。演出家の思いを汲み取り、演者と絡めて、イメージを膨らませて曲を書くのが宝塚のスタイルで、一般の作曲とはちょっと違います。それが座付き作曲家の使命だとも思っています。でも、同時に自分の個性もださなければならない。今考えてみれば、曲の持つエネルギーで、歌詞や演者を自分の世界に引っ張りこもうと意気込んでいたように思います。
杜:おっしゃる通りで、曲にのせられていましたね。もちろん歌詞と曲のコラボレーションが素晴らしいということもあるのですが、自然と起承転結が生まれるように導かれる曲をたくさん歌わせて頂きました。今、お伺いして、「やっぱりそうなんだ、先生に操縦されていた!」というか(笑)、歌の中で役者として育てて頂いたんですね。
吉﨑:「演者がこういう風に気持ちを動かしていきたいのではないか?」とこちらに感じさせるものがあったからです。杜さんは研一生の時から、ちょっと違うなと思っていました。
杜:うそー!?(笑)。
吉﨑:今のような、なんのくったくもない顔に魅力があるんですね。覚えているのは、何かの打ち上げで、柱のかげから「先生!」って私を呼ぶんです。研一生ではなかなか出来ないことですが。
杜:先生がお優しく、親しみやすかったからですよ~。それに、早くから曲を歌わせていただいていたから、作曲家の先生を近しく感じていたのでしょうね。恥ずかしい(笑)。
吉﨑:でも、嫌みがなかったんです。この人はなんかやる人だなと思っていました。
歌ってくれた人が私のエネルギーになる

吉﨑憲治=安田新之助撮影
記者:先生の曲の魅力についてどう感じていますか?
杜:おそらく先生はとても根の明るい方だと思うんです。アウトローの役や落ち込んだシーンでも曲に救いがあるんです。『ヴァレンチノ』がそうでした。だから、ショーの曲はさらにエネルギッシュなんです。宝塚のショーの曲は、お客様を元気にすると同時に演じる私達も元気になるんです。お披露目公演のショーの『ラ・パッション!』がまさにそうで、岡田先生演出で吉﨑先生の曲だったのですが、今でも下級生達が「パッション会」というのをやってくれて全員で歌うんです。この歌を好きな人は多いんです。みんな、そのころを思い出すし、元気になると言って、いろんな場で歌っています。そういうことが続いていること自体、曲が生き続けているということですね。
吉﨑:演出家から『ラ・パッション!』という表題でやりたいと言われた時は、普段考えもしない「パッション」とはなんなのか? 音で表現しなくてはならない立場にいきなりなりました。そこから、杜けあきさんがどんな風に歌ってくれるか考えて『ラ・パッション!』という言葉にあう情熱をいろいろイメージして音をのせる。それを歌ってくれたことで、また私がパッションを受けるわけです。歌ってくれる人が私のエネルギーになるわけですね。自分のやった仕事が跳ね返り、再び、こちらのパワーになる。その循環がずっと続いている。それが、宝塚なんです。
イントロが流れただけで当時に戻れる

杜けあき=安田新之助撮影
記者:平成から新しく元号が変わったお祝いムードの中で行われるコンサートということですが、何か思われることはありますか?
杜:奇しくも、私は平成元年にトップになったのですが、しかも、お披露目公演が先ほどから話に出ている『ラ・パッション!』で、元号が変わってすぐの2月でした。再び元号が変わってすぐのこの舞台、これも何かのご縁かしらと思います。私にとって平成が終わるということは、一幕が下りるような感慨深いものがあるんですね。自分にとって大切な宝塚時代と平成は共にありましたから。
元号が変わって上演されるこのコンサートがどんな進化を遂げていくか。自分たちも進化していなければ先生に怒られるだろうなと思いますし(笑)、それが楽しくもあります。
吉﨑:宝塚の舞台に立っていたあのままでいい。そんな変わらなくもいいと思っています。
杜:変えようがないとも思うんです。当時、いかに情熱をもって創っていたか、イントロが流れただけで思い出します。一瞬で当時に、目線すら変わってしまう。昨日まで女優をやっていたのに、すぐ男役の世界に。そういう醍醐味が宝塚の歌にはあるんです。本当に財産だと思います。
吉﨑:私は天皇陛下と同年代なんです。新しい時代に向けて、どういう音楽を創ったらいいんだろうかと考えた時に、今までの流れの中に身を委ね、流れに乗って次の時代に行くだけだろうと思いました。作曲活動は正直厳しいです。才能があるわけではないので、毎回毎回、絞り出しています。同じものではいけないし、自分でなくてはならないし。せめぎあいの中で、孫のような世代の新しい感覚の演出家と一緒にやっています。
杜:生みの苦しみですね。3000曲を超えているわけですから。
オールドファンには懐かしく、初めての人には新しい宝塚を

吉﨑憲治(左)と杜けあき=安田新之助撮影
記者:最後にメッセージをお願いします。
杜:私達が先生の名曲を、心を込めて歌う瞬間に、お客様には当時の情景や青春を思い出して頂けるのではないかと思います。私達も先生をお祝いして楽しんで歌いますので、是非、多くの方にお越し頂けたらと思います。
吉﨑:宝塚は「愛と夢とロマンの世界」です。そこに流れる音楽は時にやさしく、甘く、強く、激しく、そして、喜び・怒り・哀しみ・楽しさもすべて「清く正しく美しく」あるべきと、一音一符大切にメロディを生み出してきました。半世紀以上、共に宝塚歌劇を愛し、作品を作り上げてきた岡田敬二氏との「ロマンチック・シリーズ」を中心に皆様に愛された曲の数々を、そうそうたるスターが勢揃いして華やかに歌い上げます。お母様、おばあ様になられたファンの方も多いと思いますが、是非、お嫁さんやお孫さんを誘ってお越し下さい。6歳からお子様もお連れ頂けます。きっと、オールドファンには懐かしんで頂き、若い人や初めて耳にする人にも宝塚はいいなと思って頂けると思っています。
◆公演情報◆
『吉﨑憲治&岡田敬二 ロマンチックコンサート』
2019年6月1日(土)~6月2日(日) 大阪・梅田芸術劇場メインホール
公式ホームページ
[スタッフ]
作曲・編曲・音楽監督:吉﨑憲治
構成・演出:岡田敬二
[出演]
瀬戸内美八、剣幸(6月2日のみ)、紫苑ゆう、杜けあき、南風舞、こだま愛、涼風真世(6月1日のみ)、姿月あさと(6月2日のみ)、朝海ひかる、大和悠河、実咲凜音 ほか
【宝塚歌劇団 特別出演(専科)】美穂圭子、悠真倫、愛月ひかる