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【ヅカナビ】雪組『20世紀号に乗って』

強烈カップルが丁々発止の歌合戦、濃密な3時間の旅

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 とにかく密度の濃い3時間だった! 1幕終了後で1作品観たぐらいのエネルギーを消費した気がした。むろん心地よい疲れである。ブロードウェイ・ミュージカル『20世紀号に乗って』は、「個性的」を超えた、アクの強すぎる登場人物たちのぶつかり合いが、難易度の高い楽曲で綴られる。歌唱力に定評のある今の雪組トップコンビでないとできない作品である。どちらかというと真面目なイメージのある雪組主要キャストの面々が、思い切り弾けているのが気持ち良い。水を得た魚のように弾けまくった結果、むしろ本来の持ち味がさらけ出されたようでもあった。

 タカラヅカとしては2013年『戦国BASARA』-真田幸村編-、2014年『太陽王 ~ル・ロワ・ソレイユ~』に続く5年ぶりのシアターオーブでの公演だ。東京公演のみで終わってしまうのがもったいなく感じられる。今回は、その熱気あふれる様子をお伝えしよう。

シカゴ発NY行き、豪華列車で16時間

 時は大恐慌後の1930年代、かつてはブロードウェイのヒットメーカーとして鳴らした演出家兼プロデューサーのオスカー・ジャフィ(望海風斗)は失敗作を立て続けに出し、今やすっかり落ちぶれ借金まみれである。だが、起死回生の一手を思いつき、腹心の部下オリバー(真那春人)とオーエン(朝美絢)と共にシカゴ発ニューヨーク行きの豪華列車「特急20世紀号」の特別室Aに乗り込む。隣の特別室Bに乗ってくる予定の大女優リリー・ガーランド(真彩希帆)を口説いて新作に出演してもらおうというのだ。

 リリーはオスカーが見出し育てた女優で、かつては恋仲でもあった。だが今は、かたや大女優、かたや落ちぶれプロデューサー。しかもリリーは現在の恋人である体育会系二枚目俳優のブルース(彩風咲奈)を連れていた。折しも車内では「悔い改めよ」というシールが乗客たちの背中にベタベタ貼りつけられるという奇妙な事件が起こっていたが、ともあれ列車はニューヨークに向けて走り出す。オスカーのリリー説得に与えられた時間は16時間だ。

 最初は相手にもしないリリーだったが、本当は映画の仕事に嫌気がさしていて「自分には生の観客が必要」と感じていた。聖書を題材とした「マグダラのマリア」を演じて欲しいというオスカーの企画にリリーの心は動く。しかも、そこに救世主のように現れたのが、大儲けした製薬会社の会長、レティシア・プリムローズ(京三紗)だった。小切手の金額にゼロをいともたやすく増やしてくれるスポンサーの登場に、オスカーはますます強気になる。

 ところが、このプリムローズ、奇行が増えたため会長職も辞していることが判明。「悔い改めよ」シールを貼っていたのも実は彼女だったのだ。諦めきれないオスカーは銃の暴発で死にかけている芝居を打ち、契約書にサインさせようと企むが、さらに上手のリリーは涙ながらに偽のサインをする。意地を張り合いながらも次第に心を通わせる二人は、終点ニューヨークでついに寄りを戻し、めでたくハッピーエンドで幕となる。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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