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大ヒット新書・永六輔『大往生』は誰が買ったのか

小木田順子 編集者・幻冬舎

『大往生』は「意外性」で売れたのか?

 まず挙げたいのは、「『大往生』は誰が買ったのか」ということ。本でも書かれているが、当時、ヒットの理由は、「お堅い岩波新書とタレント永六輔さんの意外性・ミスマッチ」とよく言われた。実際、私もそう思い、編集者仲間でもそれが一致した見方だった。

新書の新刊=東京・池袋のジュンク堂書店池袋本店 2009年拡大何度か起こった「新書ブーム」では、ふだんさほど本を読まない層まで読者の裾野が広がった=2009年、東京のジュンク堂書店池袋本店
 だが、岩波の編集部に届く読者からの手紙の大半は中高年の女性から。当時、新書の読者層のコアは団塊世代の男性と言われており、井上さんは、「中高年の女性層からここまで支持を得たのは、岩波新書始まって以来と言っていいくらいでした」と書いている。雑誌『ダ・ヴィンチ』で『大往生』の読者アンケート特集を組んだ際には、「母が初めて読み通した新書です」という感想もあったという。

 「ミスマッチ」はたしかに起動力になったのだろう。だが、そこから先は、そもそも岩波新書のことなど知らない、もっと言えば、ふだん本そのものをあまり読まない層が手にとったから、『大往生』はベストセラーになった。

 「女性」「中高年(かなり「高」寄り)」「ふだん本を読まない」という読者層は、現在携わっている幻冬舎新書(創刊して12年)で、数十万部を超えるベストセラーとなった本にも、そのまま当てはまる。

 私が新書の仕事に携わるようになってから、何回か「新書ブーム」と呼ばれる時期があった(1998年とか2005年とか)。ブームとは読者の裾野が広がることで、それはすなわち、「教養新書のカジュアル化」「教養新書の溶解」のプロセスだった。その結果、いまや新書は、「新書のかたちをした本。中身はなんでもあり」という以上の定義づけはできないものになった。が、その先鞭をつけたのが『大往生』だった。これは、今回本を読んでの、ある意味、新しい発見だった。 (つづく)

*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。


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筆者

小木田順子

小木田順子(こぎた・じゅんこ) 編集者・幻冬舎

1966年、長野県生まれ。90年、PHP研究所に入社。PHP新書創刊に携わる。2005年、幻冬舎に入社し、幻冬舎新書の創刊に携わる。気がつけば、編集者人生の大半を新書編集者として過ごしている。担当した本は村山斉『宇宙は何でできているのか』(新書大賞2011)、香山リカ『しがみつかない生き方』、國分功一郎『来るべき民主主義』など。書評誌『いける本・いけない本』編集長も務める。