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タイガーマスクと派手ないでたちで街中を走る「新宿タイガー」拡大タイガーマスクの派手ないでたちで街中を走る「新宿タイガー」

タイガーのいる風景

 街で新宿タイガーを見かけたことが2回ある。1980年代半ばとゼロ年代の初頭だったと思う。最初のときは目の前の事態がよく分からず、連れの友人に尋ねた。すると彼はたしかこんなことを言った。

 「あの人はタイガーマスクになる修行をしているお坊さんらしいよ」

 2回目は、タイガーが新宿の名物であることをすでに知っていた。自転車に乗って靖国通りをさーっと横切っていった。「ああ、まだやってるんだな」と口の中でつぶやいた。

 80年代の半ばに私は出版社のサラリーマンで、ゼロ年代には2回の転職を経てもう“後のない”自営業者に転じていた。「ああ、まだやってるんだな」というつぶやきは、そんな自分と彼を比べた感慨でもあったのだろうか。

 新宿タイガーとして生きると決めた1970年代から、その人はずっとスタイルを変えていない。毎日6時間かけて新宿の街で朝日新聞を配達し、仕事が終わると映画館をはしごし、ときにはゴールデン街に出没する。

 本人が言うように、金にもモノにも名声にも、いわんや権力にも執着はない。木枯らしの日も炎熱の日も、タイガーマスクのお面をつけ、ぬいぐるみやら造花やらが絡まり合った大きなデコレーションをかついで、新宿の街を駆け抜けていく。

 それは何のためなのかと問えば、スローガンのように「愛と平和」と答える。そいつは一種の韜晦(とうかい)ではないのかと疑うのは野暮。もうすぐ半世紀になる「修行」は、彼の言動を、街を吹き抜ける風のようにさりげないものに変えつつある……。

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筆者

菊地史彦

菊地史彦(きくち・ふみひこ) ケイズワーク代表取締役、東京経済大学大学院(コミュニケーション研究科)講師

1952年、東京生まれ。76年、慶應義塾大学文学部卒業。同年、筑摩書房入社。89年、同社を退社。編集工学研究所などを経て、99年、ケイズワークを設立。企業の組織・コミュニケーション課題などのコンサルティングを行なうとともに、戦後史を中心に、<社会意識>の変容を考察している。現在、株式会社ケイズワーク代表取締役、東京経済大学大学院(コミュニケーション研究科)講師、国際大学グローバル・コミュニケーションセンター客員研究員。著書に『「若者」の時代』(トランスビュー、2015)、『「幸せ」の戦後史』(トランスビュー、2013)など。

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