さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター
大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
『レ・ミゼラブル』テナルディエ役で堂々のデビュー
全世界で観客総数7,000万人を超える『レ・ミゼラブル』(=レミゼ)は、まさにミュージカルの金字塔だ。日本でも1987年の初演以来30年以上、上演回数3100回を超え、今もなお進化し続け、その人気は留まるところを知らない。
19日に東京公演の幕が開き、全国5大都市で上演されるこの名作ミュージカルに、お笑いコンビ・トレンディエンジェルの斎藤司さんが挑む。宿屋の主人テナルディエ役をみごとオーディションで勝ち取り、ミュージカル俳優デビューすることになった。テレビの歌番組等で歌唱力には定評がある斎藤さんだが、並み居る俳優たちと並んで、ミュージカルの最高峰『レ・ミゼラブル』に出演する心境はいかに? その意気込みを語った。
記者:小さい頃から歌うことがお好きだったんですか?
斎藤:父親が美空ひばりさんの大ファンで、ずっと一緒に聞いていたので、僕もカラオケではよくひばりさんの歌を歌っていたんです。さらに我が家の食卓にはクラシックが流れていて、アイネ・クライネ・ナハトムジークを聞きながらご飯と味噌汁を食べる。そんな環境が少なからず音楽の感性に影響を与えてくれたかもしれません。
記者:オーディションはどのような気持ちで臨みましたか?
斎藤:当たって砕けろですね。胸を借りる気持ちで受けたのですが、正直、「合格しないでくれ」と思う自分もいました。でも審査が進んでいくにつれ、覚悟を決めるしかないと腹をくくりましたし、結果、受かったことは自信になりました。
記者:どこが合格の決め手となったと思われますか?
斎藤:テナルディエは目標を達成するためにサービス精神を発揮しますので、僕もアフタートークを頑張りました。自己紹介ギャグをやったりして、「この人やりたいんだな」という強い意志が伝わったのかもしれませんね(笑)。
記者:最初にお稽古場に入ったときはどんなお気持ちでしたか?
斎藤:稽古は発声練習から始まるのですが、その説明があった日だけ参加できなかったんです。皆さんがいきなり「あえあえあー」と発声練習を始めたので、「何だそれ、ヤバイ、僕だけ知らない!」と焦りました。稽古の合間に笑いが起こったり、そんなところは芸人の世界と変わらないのですが、独特の緊張感はありますね。
記者:最初は圧倒されたんじゃないでしょうか。
斎藤:歌稽古の時に「斎藤さん、みんなの方を見て歌ってみようか」と言われた時は驚きましたね。名だたる方たちの前で歌うのは、さすがに緊張しました。
記者:芸人さんの中でも歌の上手さには定評がありましたが、ミュージカルの歌い方はまた一からの勉強になりますね。
斎藤:これだけ歌の上手な方々が集まっていて、その方々から直接声の出し方やコツなどを教えてもらえるので、身に入りやすいです。良いとこ取りの近道をさせてもらってる感じです。
記者:共演者からどんな刺激を受けていますか?
斎藤:小さなことから意外なことまで日々発見です。とにかく人数が多いので、最近ようやく皆さんの顔と名前が一致してきたかな。人見知りなので自分を出すまでの環境づくりに苦労しました。はしゃぎすぎて「何だ、あいつ」と思われないよう、丁寧にみなさんと接したうえで、徐々に自分を出していってるところです。
記者:テナルディエはどういう人物だと思われますか?
斎藤:ひと言でいうと純粋な人ですよね。とにかくお金がほしい。悪い人なんですけど、生きるために純粋にお金を求めるという芯が強くあります。芸人になる時の、ただ売れたいだけじゃなく、いい車に乗りたいとか、チヤホヤされたいといった煩悩に通じるところもあるんじゃないでしょうか。
記者:斎藤さんならではのテナルディエはどのように演じますか?
斎藤:演じようなんて余裕はまだありません。昨日は「怖さが足りない」と言われたので、怖さ重視でやってみたら、今度は「迫力がない」と言われたりして、今は試行錯誤している段階です。テナルディエ役のほかの3人に比べると声が高いので、緩急をつけながら高いところは誰よりも高く出そうと考えたりしています。コミカルな部分は褒められるので、どんどん活かしていきたいですね。
記者:初めての劇場に立つお気持ちは?
斎藤:いつもとは格式や重さが全然違いますが、逆にまったくわからない感じがいいのかな。お客さんを前にするライブは何千回とやっていますから、そこに関しては臆することなく立ちたいなと思っています。
記者:気分はミュージカル俳優ですね。
斎藤:はい、もちろんです!
記者:出演が決まって、まわりの反響はいかがでしたか?
斎藤:レミゼを知っている人は「すごいじゃん!」と褒めてくれました。でも、よく知らない人は「へえ、ミュージカルやるの?」って、神保町花月ぐらいのノリで言ってきたので、格が違うんだぞと(笑)。
記者:ジャングルポケットの斉藤慎二さんもオーディションを受けられていたのですよね。
斎藤:「頑張ってね」と応援してくれていますが、その言葉の端々に悔しさがにじみでているのを感じます。慎二のためにも、失礼にならないよう頑張ります。でも彼はまだあきらめていませんよ。
記者:エハラマサヒロさんもミュージカル『ファントム』に出演されますね。
斎藤:そうなんです。エハラさんは以前からミュージカルに出ていますし、渡辺直美も『ヘアスプレー』に出ますし、うかうかしていられません! 本気で地位を築くといったらあれですが……。
記者:ミュージカル界の芸人枠を築きたいと。
斎藤:もちろん。そのためにもここでしっかり結果を残さないといけません。ミュージカルのできる漫才師として。
記者:これをきっかけに、ほかのミュージカル作品にも挑戦してみたいですか?
斎藤:そうですね。僕はイギリスが大好きなんです。M-1を取る夢と同時に海外に住みたいという夢もありますので、ミュージカルへの出演がきっかけになったらいいなと思います。
記者:じゃあ、ピースの綾部さんがうらやましいのでは。
斎藤:めちゃくちゃうらやましいです。綾部イズムの継承者として、イギリス担当になってみたいです。実は占いで言われたんですよ。「2018年末から2019年にお笑い以外の仕事をやることになります。それがとんでもない成果を生みます」と。その通りになったらいいなあ。
記者:海外ミュージカルスターが正夢になるかもしれませんね。
斎藤:今だけかもしれませんよ。僕とこうして会えるのは!(笑)
記者:レミゼの魅力はどんなところだと思いますか?
斎藤:現状に甘んじず、革新を重ねているところです。完成している歌でさえ、よりお客様が見やすくなるように時代に合わせて演出を変えたり、常に進化しているのがすごい。ミュージカルというと難しいイメージがありますが、レミゼはとにかくわかりやすくて感動できるのがいいです。
記者:好きな場面はどこですか?
斎藤:銀食器を盗んだジャン・バルジャンが司教さまに諭され、目覚めるシーンからタイトルが出るところなんて、たまらないじゃないですか!? 最後にジャン・バルジャンが亡くなって「民衆の歌」になるところも、3回稽古して3回とも泣きました。すべてが素晴らしいので、どのシーンが一番かを決めるのは難しいですね。
記者:斎藤さんが出演されることで、初めて見るお客様もいらっしゃると思います。注目するポイントなどあれば。
斎藤:逆に注目する必要はありません。何も考えずに見て大丈夫なのがレミゼです。とにかく遅刻しないでください。よくいるんですよ、ルミネで一番前の席なのに遅刻する人。僕を見ないで和牛から見るとか。遅刻はもったいないからやめてください。
記者:(笑)。では最後にメッセージをお願いします。
斎藤:老若男女誰もが楽しめる素晴らしい作品です。もしかしたら僕の初日は大根かもしれませんが、千秋楽のころにはだいぶ味がしみ込んで、箸で切れる演技をお見せできると思います。おでんの大根になるように頑張りますので、温かい目でみてください。よろしくお願いいたします。
◆公演情報◆
ミュージカル『レ・ミゼラブル』
東京:2019年4月19日(金)~5月28日(火) 帝国劇場
※プレビュー公演:2019年4月15日(月)~4月18日(木)
名古屋:2019年6月7日(金)~6月25日(火) 御園座
大阪:2019年7月3日(水)~7月20日(土) 梅田芸術劇場メインホール
福岡:2019年7月29日(月)~8月26日(月) 博多座
北海道:2019年9月10日(火)~9月17日(火) 札幌文化芸術劇場hitaru
公式ホームページ
[クリエイティヴ]
作:アラン・ブーブリル&クロード=ミッシェル・シェーンベルク
原作:ヴィクトル・ユゴー
作詞:ハーバート・クレッツマー
オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ
演出:ローレンス・コナー、ジェームズ・パウエル
翻訳:酒井洋子
訳詞:岩谷時子
[キャスト]
ジャン・バルジャン:福井晶一、吉原光夫、佐藤隆紀
ジャベール:川口竜也、上原理生、伊礼彼方
ファンテーヌ:知念里奈、濱田めぐみ、二宮愛
エポニーヌ:昆夏美、唯月ふうか、屋比久知奈
マリウス:海宝直人、内藤大希、三浦宏規
コゼット:生田絵梨花、小南満佑子、熊谷彩春
テナルディエ:駒田一、橋本じゅん、KENTARO、斎藤司
マダム・テナルディエ:森公美子、鈴木ほのか、朴璐美
アンジョルラス:相葉裕樹、上山竜治、小野田龍之介
ほか
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