
カムイノミ(カムイ=神に祈りを捧げる儀式)や泥酔した男性を連れ帰る女性などを描いた絵巻物=北海道立文学館所蔵の舟山広治コレクション
アイヌの先住権としての自然資源の入手権
まず、(3)自然資源の入手権にふれれば、アイヌが先住民としてもつのは、各種の自然資源、すなわちサケなどの水産資源、熊・鹿などの動物資源、ヤナギその他の植物資源それぞれの入手権(漁労権・狩猟権・採集権)である。
だが「新法」案では、これを先住権として部分的にせよ保障する姿勢は見られない。それは新法の体裁をとった旧法にすぎない。
「国有林野」の限られた利用のみ
アイヌはその社会生活において各種の植物資源を用いる。
アイヌ社会にはいたるところに神(カムイ)がおり、アイヌはそのカムイとの交流を通じて、物質的および精神的な生活を組織してきた(元々「アイヌ」=人間も、カムイに対する名称である)。カムイを祀り祈る儀式には、イナウとよばれる木幣が重視される。ちょうど和人社会の神棚等に見られる垂(しで)や幣(ぬさ)と同様に、イナウはたいていの家に置かれるという(萱野茂『おれの二風谷』すずさわ書店、1975年、33頁)。これはふつうヤナギから作られる。
あるいは、アイヌはアットゥシと呼ばれる伝統的な衣装をしばしば身に着けるが、これはオヒョウニレなどを素材とする、等。
けれども、これら植物資源の採集は、私有林の場合でなければ法律で禁じられている。新法案もけっきょく、申請があった場合に「国有林野」の一定の「使用」を認めるだけである(第16第1項)。そこには、植物資源の「採取」をアイヌ民族固有の権利と見なす姿勢は見られない(そこに「権利」という言葉はあっても、それは契約によって生じる権利の意味を出ず、先住民族の集団的権利とは見なされていない<杉田「先住権への配慮を欠いたアイヌ政策」>)。
だからもちろん新法案は、アイヌへの、(1)「国有林野」の返還も、その長期間の「貸与」(後述)も、全く視野に入れていない。(2)コタン周辺に位置する領域(森林等)に対する管理権も同様である。
かつてアイヌは、北海道で自由に生きた。北海道は
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