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幻の傑作ドラマ「アフリカの夜」再発見

演劇博物館がシナリオで楽しむトークショー

岡室美奈子 早稲田大学演劇博物館館長

岐路に立つ女たちのドラマ

 「アフリカの夜」は、1999年にフジテレビ系列で放送され、アパート「メゾン・アフリカ」を舞台に人生の岐路に立つ女たちの姿をきめ細やかに描き、視聴者、とくに多くの女性たちの共感を呼んだ。今なお熱烈なファンの多いドラマだが、当時はなぜか視聴率がふるわず、ソフト化もされなかったため、幻の傑作ドラマと呼ばれてきた。

 現在ではFOD(フジテレビオンデマンド)で配信されているが、もっともっと多くの方々にこのドラマの魅力を知っていただきたいと、今回のトークショーを企画した。このドラマには、現在に通じるテーマが盛り込まれていて、平成が終わろうとしている今なお、私たちの心に新鮮な感動をよび起こす。

 「アフリカの夜」は、ハネムーンに旅立とうとした矢先、結婚相手が業務上横領容疑で逮捕されるという人生最大の挫折を味わったヒロイン杉立八重子(鈴木京香)が、心機一転、アパート「メゾン・アフリカ」に引っ越し、その管理人となることから始まる。そこには、売れない女優でわがままな相沢有香(松雪泰子)、その恋人で実は八重子の元恋人でもある映画監督の木村礼太郎(佐藤浩市)、その妹で自己主張の強い木村緑(ともさかりえ。緑は第4話で越してくる)、惣菜屋を営む丸山良吉(國村隼)・みづほ(室井滋)夫婦が住んでいた。実は、みづほは大きな秘密を抱えて逃亡しているのだった。やがてみづほの正体が発覚し、八重子たちは良心と友情の狭間である決断をして……。

 このドラマでは、礼太郎をめぐる有香と八重子の三角関係(ブラコンの緑も入れれば四角関係だ)が描かれるものの、いわゆる恋愛ドラマではない。むしろ人生の岐路に立つ女たちの群像劇と言えるだろう。

「アフリカの夜」台本拡大「アフリカの夜」の山場である第9話のシナリオ=早稲田大学演劇博物館所蔵

 結婚に挫折して仕事も辞めて、かつて「アフリカの夜」という映画を撮った礼太郎が言った「道は開かれている」という言葉を心の支えに塾講師の仕事をつかみ取ろうとする八重子、女優として生き残れるかどうかの瀬戸際に立つ有香、「メゾン・アフリカ」の住人たちと触れ合いながら変わってゆく緑、そして大きな秘密を抱えながら逃げ切ろうとするみづほ。彼女たちは産む/産まないなど大きな選択を迫られ、それぞれに葛藤しながら友情を選び取っていく。彼女たちを見守る礼太郎や良吉は、良き理解者であり、彼女たちの言葉に真摯に耳を傾ける心優しい男たちだ。


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筆者

岡室美奈子

岡室美奈子(おかむろ・みなこ) 早稲田大学演劇博物館館長

早稲田大学坪文化構想学部教授。専門はサミュエル・ベケット、テレビドラマ、現代演劇、オカルト芸術論 主な編著書に『ベケット大全』(白水社)、『六〇年代演劇再考』(水声社)など、主な翻訳に新訳ベケット戯曲全集1 ゴドーを待ちながら/エンドゲーム」(白水社)などがある

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです