岡室美奈子(おかむろ・みなこ) 早稲田大学演劇博物館館長
早稲田大学坪文化構想学部教授。専門はサミュエル・ベケット、テレビドラマ、現代演劇、オカルト芸術論 主な編著書に『ベケット大全』(白水社)、『六〇年代演劇再考』(水声社)など、主な翻訳に新訳ベケット戯曲全集1 ゴドーを待ちながら/エンドゲーム」(白水社)などがある
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
演劇博物館がシナリオで楽しむトークショー
実は平成は、こうした働く女たちの連帯がドラマでさかんに描かれるようになった時代だった。94年に鎌田敏夫氏の名作「29歳のクリスマス」が登場し、98年には「ショムニ」や「きらきらひかる」が人気を博した。この流れは現在も続いている、というより、平成が終わろうとしている現在、より顕在化していると言えるだろう。
たとえば、2017年の話題作、坂元裕二氏の「カルテット」では、男女4人の共同生活が展開するが、最終的に大きな秘密を共有するのは真紀(松たか子)とすずめ(満島ひかり)だけで、その絆が特別なものとして描かれる。別府(松田龍平)と家森(高橋一生)は、ここでも女たちの声に真摯に耳を傾ける心優しい男たちだ。松田龍平つながりで言えば、野木亜紀子氏が脚本を手がけた昨年の「獣になれない私たち」も、新垣結衣演じるヒロイン晶の職場での生きづらさや恋人の京谷(田中圭)や恒星(松田龍平)との恋愛関係を描いたが、新鮮だったのは、京谷の元カノでいまだに京谷のマンションに住みついている朱里(黒木華)、京谷の母親・千春(田中美佐子)と晶とのゆるやかな連帯が描かれたことだ。
男性以上に生きづらさを抱えてきた女性たちが、愛憎を超えてその痛みを分かち合うのである。世の中を生き抜いていく知恵と勇気を、私たちはこうしたドラマからもらってきたのだと思う。
そしてこれらのドラマは、今を生きる男性たちにとっても道標になるのではないか。
「オレについて来い」的なマッチョな昭和の男性像ではなく、他者の話に耳を傾け、心の痛みを理解し共感を寄せられる平成の男たちを、こうしたドラマは繰り返し描いてきた。「アフリカの夜」で、最後に携帯電話を握りしめて八重子の話を聴く礼太郎の感動的なシーンは象徴的だ。令和となっても、こうした女たちの連帯とその声に耳を傾ける男たちは描かれ、共感を呼ぶだろう。その意味で、「アフリカの夜」は平成という時代が形成してきた世相や価値観を先取りし、体現していたドラマとも言える。
「アフリカの夜」の脚本を手がけた大石静氏は、朝ドラ「ふたりっ子」「オードリー」のほか、「四つの嘘」「セカンドバージン」など数かずのヒットドラマを手がけてきた。昨年は「大恋愛~僕を忘れる君と」で旋風を巻き起こし、今年の1月ドラマ「家売るオンナの逆襲」も高視聴率を獲得した実力派である。
「アフリカの夜」でも、繰り返し語られる「道は開かれている」をはじめとして、多くの名ぜりふを生み出した。とりわけみづほが八重子に言う「自分の人生の責任は自分でしか取れないの。だから自分がしあわせになるために闘うことを恥じることはない……強くなんなさい!」(第4話)は、どれほど多くの女性たちを勇気づけたことだろう。また、第9話でみづほが自分の正体に気づいた八重子に迫るシーンは室井滋氏の鬼気迫る演技とあいまって、忘れられないシーンとなった。終盤の女たちの大きな決断や礼太郎の電話のシーンなど、名シーンを挙げればキリがない。