メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

上野千鶴子・東大祝辞への反応で分かる貴方の味方

差別に無理解な人は困った時に助けてくれない

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

東京大の入学式で祝辞を述べる上野千鶴子・名誉教授=2019年4月12日午前11時30分、東京都千代田区の日本武道館東京大学の入学式で祝辞を述べる上野千鶴子・名誉教授=2019年4月12日、日本武道館

 2019年度東京大学入学式で、上野千鶴子名誉教授(女性学)が述べた祝辞が大きな話題となっています。Twitterでも関連ワードがいくつもトレンド入りし、TVのニュースやワイドショーでも各局が報じるほど、大学の祝辞としては異例の注目を集めました。

 普段は女性差別や自己責任論の問題についてほとんど言及しない人々まで、「祝辞、とても素晴らしかった」「感動した」というTwitterの投稿をしており、共感を覚えた人々の手によってネットメディアからマスメディアへと瞬く間に広まったのだと思われます。

上野祝辞が注目を浴びた3つの要点

 祝辞は東京大学のHPで全文を読むことが出来ますが、特に注目を浴びた点をピックアップすると、以下の3点だと思います。

(1)医大・医学部入試における女子・浪人受験生の点数改ざん問題を中心に、女子教育において様々な「意欲の冷却効果」が女子の進学率向上を阻んでいる問題や、「女性の価値と成績の良さ」との間にねじれがあるため東大女子が自分は東大の学生だと公言しにくい問題等、様々な女性差別問題について全体の約5分の2を使って触れた点。

(2)「がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだ」と述べ、成功者が陥りがちな『公正世界仮説(=「頑張った分だけ必ず報われる」という認知バイアス)』と、それに導かれる「彼らが報われないのは頑張っていない彼らが悪い」という「自己責任論」を暗に否定した点。

(3)「(あなたたちの)恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください」という形で、「ノブレス・オブリージュ」を説いた点。

上野祝辞は基本中の基本しか言っていない

 確かに、わずかな時間の中に様々なテーマを入れ込みながら、個別具体的な問題から抽象的な理想論へと話をスムーズに持っていった点と、静かな口調であるにもかかわらず、抑揚のある読み方で聴衆を引き込んだ点は、さすが日本の女性学をリードし続けてきた上野氏だったと思います。

 ですが、内容自体はごく当たり前の指摘であり、今の社会の課題をピックアップした基本中の基本ばかりです。Twitterを開けば、女性差別や自己責任論の問題に関心のある人々が毎日つぶやいていることと、それほど変わりません。

 そういう人々は、上野氏が述べた内容自体を評価するよりも、「男性優位社会を生み出している意思決定層を多く輩出する東大の入学式において、上野節でかましてくれたこと」に対して、「よくぞそのような場で言ってくれた」「彼女を呼んだ東大も偉い」という声が多かった印象があります。

 東大の祝辞でフェミニズムやノブレス・オブリージュが語られ、それが多くの人に称賛されたことは、大きな意味を持つのかもしれません。ですが、これからは、上野氏の発言は「そんなことは当たり前」となり、女性差別や自己責任論への否定を自分自身の言葉で語れるようにならなければ、彼女の指摘した問題が解消される社会には進めないと思います。

東京医科大正門前で抗議活動する人たち=2018年8月女子受験生への点数改ざん問題で東京医科大学に抗議する人たち=2018年8月

上野祝辞が入学式にふさわしい理由

 一方で、当然ながら、称賛の声ばかりではありませんでした。Twitterで「#東大入学式2019」と検索すると一目瞭然ですが、東大の新入生と思われるアカウントからは、「やべーやつの臭いがする」「祝辞でクソフェミ披露するな」「フェミニストも性差別やからな?自覚しろ」「あーキレそう ほんま無理」等、祝辞を馬鹿にする発言が散見されました。

 上野氏の祝辞を20歳前後で聴くことが出来た東大新入生は、それ自体が大変恵まれている環境にいると思うのですが、せっかくの経験を活かす人と活かせない人の差は既にあるようです。

 また、酷いのは東大生だけではありません。様々な人から、「後半は良かったけれど、前半はダメだった」という批判がいくつも上がっていました。つまり、公正世界仮説の否定やノブレス・オブリージュを説いた部分は賛同するものの、フェミニズムの部分は感心しないという意見です。

 ですが、この祝辞の前半と後半は分かちがたく繋がっているものです。後半で指摘している、努力が報われない社会や誰かを貶める社会を如実に表している代表例が前半で指摘した女性差別であると説いているわけで、どちらか一方を切り離すことは出来ません。前半を否定する人は結局のところ、後半の部分も理解出来ていないのだと思います。

 さらに、「内容は賛成だが、入学式の祝辞で言うべきことではない」という声も多々あります。ですが、東大エリートが中心になって形成したこの日本の社会で大きく欠けている点がフェミニズムやノブレス・オブリージュであり、これから新しいリーダーとなるべき人はそこを是正していく人材にならなければならないと上野氏は説きたいのでしょう。そういう意味では、むしろ入学式こそ最も相応しい場ではないでしょうか。

勝手に「女性の話」を始める木村太郎氏

 そして、毎度指摘していることですが、テレビのコメンテーターによる的外れなコメントも後を絶ちませんでした。ここでは、ネット上での批判が多く、炎上気味になったコメントをいくつか紹介したいと思います。

 まず、2019年4月14日放送の『Mr.サンデー』(フジテレビ系)では、木村太郎氏が、

・・・ログインして読む
(残り:約3490文字/本文:約5776文字)