孫正義氏、柳井正氏も読んだベストセラー『ユダヤの商法』が復刊。その中身とは。
2019年04月30日
この4月12日、47年ぶりに日本マクドナルド創業者である藤田田(1926年~2004年。以下「田さん」と表記)の『ユダヤの商法』(KKベストセラーズ 新装版)が復刊された。同書は1972(昭和47)年5月に初版、現在までに総計278刷84万7000部(今回の復刊、重版含む)の増刷を重ねたベストセラーである。弊社創業者で担当編集者だった岩瀬順三が1986(昭和61)年に亡くなってから、版を重ねることなく、「古本」市場で2万円近くの高値で取引をされるほどになった。ゆえに「幻のベストセラー」と言われ、復刊待望リクエストを多くの読者からいただいていた。
初版1万2000部。ネットを中心に「あのユダヤが復刊!」の噂がまたたく間に口コミで広がり、果たして発売解禁後にアマゾンでは在庫3000部が一瞬でなくなり、総合1位となるとともに、リアル書店でも大都市部での売り上げがうなぎ登り、即日「重版決定」となった。
それにしても、「昭和」に活躍した田さんの『ユダヤの商法』が、「平成」が幕を下ろし「令和」がはじまろうという今、なぜ売れて(バズって)いるのだろう? 制作者の立場から考えてみたい。
私が思うに、売れている理由は以下の四点に集約される。
『ユダヤの商法』に感化された当時、17歳の孫さんは、田さんに何度も面会を求め、断られながらも15分ほど面談したという「武勇伝」も残されている。そうした「伝説的名著」として噂(うわさ)が立っていたことが、追い風になっているのは間違いない。
それはつまり、田さんの「言葉」は“現役”の経営者の血肉としていまなお「生きている」証拠でもあり、それが「口コミ」によって特にウェブで広がったのだろう。
まず、田さんの語り口は「大阪人」特有のリズムで面白い。ドライブ感が心地いい。
次に、ネットでもいろいろ書かれているが、「商売人がやらなきゃならないことがすべて書いてある」という「商法」に対する評価と、読んだ後に「元気が出る」、「ワクワク」するなど、読者を「何らかの行動」に誘う内容になっていることが、受けている理由ではないかと思う。あの孫さん、柳井さんを「ワクワク」させた本だから、当然といえば当然ではあるが。
書籍編集者なら「誰でも知っている(あえて強調!)こと」ではあるが、逆説的に言えば、「経営者」の成功譚、自己啓発、情報商材のたぐいは、そもそも読者とは「生きる諸条件が異なる」ため、著者以外「応用できない」話がほとんどだ。つまり、出版社は巧妙に「無駄な読書」をさせているとも言える。
わけても、人生経験が少なく、何の商売をしているのかわからない経営者の「金儲け本」は例外なくそう。はっきり言って、時間の無駄なのだ。
これに対し、田さんの本は、3分の1は「時代錯誤」なものもある(認めます!)が、「3分の2」は今だに誰もが応用できるアイデアである。一言で言えば、「実行(仕事)し続ければいい」だ。別の言い方をすると、本人の努力次第、「継続する克己心」で何とかなるお話ばかり。で、それを「遵守」すれば、おおよそ成功できるような原理原則なのだ。
田さんの「商法」の原理原則の第一は、たった一つの方程式(たぶん)。
「仕事×時間=巨大な力」
につきる。
自身がなした40年間続けた10万円貯金(複利で2億円超!)も、1兆7千億円の資産も、田さんの「仕事×時間」すなわち努力の延長にある。「女と口を狙え!」「金持ちから流行らせろ!」「必ずメモを取れ」などのアジテーションは、「地味な努力」を背景とした「言葉」である。田さんの偽悪的で、露悪的な言葉の端々には、こうした「努力」が見え隠れする。
そして、田さんはこうも語る。「金儲けなんか誰でもできる」と。
そう、誰もが「やれば出来る」けど「やれない」97個の成功法則が、常に開かれて「ある」ことが、本書の要諦なのだ。それを、やり通した人が、孫さんや柳井さんのような大経営者になれることを担保されている「約束の書」。そんなイメージがこの本にはある。
今の政治家がしたり顔で語る「働き方改革」を、田さんならどう思うだろうか。そんな「今」を比較しながら、仕事の意味を考えるとおもしろい。
本書のタテ糸が「金儲けの法則」なのはもちろんだが、ヨコ糸としてあるのが、人生の痛みを盛り込んだ「義理人情の経営」である。本書が復刊を待たれた理由は、実はここにあるのではないかと、初版時に3歳だった私には思えている。「勝てば官軍」と徹底的に合理的な経営を行う田さんを動かすのは、実は極めて非合理な「人情」だと思えてくるのである。
たとえば、本書に登場するケネディ米大統領への直訴状のくだりは、自分の旧制松江高校時代の仲間が神風特攻隊で散華した話を盛り込み、「アメリカ悪徳商人」に対する日本人の真心が込められている。さらに、敗戦の原因、「持たざる国」の貧困と真摯(しんし)に向き合った面も垣間見える。
田さんは、あるインタビューの中でこう語っている。
「私はやはり、第二次世界大戦に日本が負けたというのは、
米国の物量というかな。米国の経済力に負けたと。
だからこれからは、やはり金が無かったら勝てないと。
日本の精神、竹槍で米国に挑戦したって勝てないんでね。
やはり経済力であり、物量であり、お金の力が無かったら勝てないと。
「人生は金や」と。
で、金も無いのに、いろんな事業を興すとか救国済民で、
いろんな人を助けるとか、生意気なことを言ったって、
金がなきゃ救国済民もならんですよね」
(1993年藤田田インタビュー録音記録 中村芳平取材)
田さんは、「人間は裸で生まれて裸で死んでいく」という無常観を訴え、
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