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愉快で自由な「へそまがり」美術

府中のおかしな江戸絵画、入場者は新記録

山口宏子 朝日新聞記者

 東京の府中市美術館で、江戸時代を中心に、一風変わった絵画を集めた展覧会「へそまがり日本美術」が、5月12日まで開かれている。

 作品と向き合っていると、不思議な感情がわき上がる。美術館でよく感じる「なんと美しい」「超絶技巧にびっくり」「うーん、考えさせる」とは正反対。「なぜこんな形に?」「まじめに描いたの?」「実はうまいの? ホントに下手なの?」――と頭の中を「???」が飛び交い、知らず知らずのうちに笑いがこみ上げてくる。描いた人も、あの有名画家から、お殿様、文豪まで、多士済々。「美術はこう見なければ」と固まった考えをもみほぐされる、実に愉快な展覧会だ。同美術館の入場者記録を作る人気を集めている。

将軍さまは「ポソポソ」で「ピヨピヨ」

「兎図」拡大徳川家光「兎図」(部分)

 このウサギをご覧いただきたい。切り株の上に座った姿を真正面から描いている。

 大き過ぎる黒く丸い目。ポソポソした毛並み。耳は破線で縁取られている。うまいとは言いがたいが、目を引きつける奇妙な力がある。図録の表紙も飾り、展覧会の「顔」になっているこの絵。描いたのは、江戸幕府三代将軍、徳川家光だ。

 家光といえば、武家諸法度や参勤交代などの体制が整備され、キリシタン弾圧や貿易の統制強化などで徳川幕府の基礎が固まった時期の将軍だ。その人が……。

「兎図」全体拡大徳川家光「兎図」(全体)縦73.8センチ、幅27.7センチ、17世紀前半
「木兎図」拡大徳川家光「木兎図」縦50.6センチ、横30.9センチ、17世紀前半

 ウサギの絵は全体を見ると、こんな感じ。縦73.8センチ、幅27.7センチ。上様が、ちんまり描いているところを想像すると、ちょっとおかしい。伊予国西条藩(いまの愛媛県西条市周辺)の最後の藩主、松平頼英が所蔵していたことがわかっており、現在は個人蔵。実物が公開されたのは、今回が初めてだ。

 家光の絵はこの他にも「木兎(みみずく)図」を見ることができる。

 こちらもミミズクは小柄で、大きな目が印象的。家光の乳母だった春日局(かすがのつぼね)の息子、稲葉正勝が創建した養源寺(東京都文京区)に伝わる作品だ。

 展示は前期(3月16日~4月14日)で終わったが、同じく家光の描いた「鳳凰(ほうおう)図」には、思わず口がぽかんと開いてしまう。

「鳳凰図」拡大徳川家光「鳳凰図」(部分) 全体は縦44.2センチ、横31.0センチ、17世紀前半

 徳川家伝来の史料を保存する德川記念財団の所蔵で、箱には「大猷院様御筆 鳳凰一幅」と書かれているという。大猷院(たいゆういん)とは家光のこと。その重々しさと、ネットで「ピヨピヨ鳳凰」とニックネームを付けられた絵とのギャップが、何とも楽しい。

筆者

山口宏子

山口宏子(やまぐち・ひろこ) 朝日新聞記者

1983年朝日新聞社入社。東京、西部(福岡)、大阪の各本社で、演劇を中心に文化ニュース、批評などを担当。演劇担当の編集委員、文化・メディア担当の論説委員も。武蔵野美術大学非常勤講師。共著に『蜷川幸雄の仕事』(新潮社)。

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