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カラスヤサトシさんに訊くコミックエッセイ業界

井上威朗 編集者

 広島カープ、弱いですね。

 選手たち以上にメンタルの弱い「カープおじさん」である当方は、球場に通っては体力気力を消耗して仕事に戻るという生活で、いい感じで老化が進展している次第です。

「カープおじさん」の記事

 いくらぼっち観戦を気どっても、これではあまりに辛い、辛すぎる。10年前は平気だったのに、変に楽しい3年間を過ごしたせいで、今の私は「弱いカープの楽しみ方」を忘れてしまったのかもしれない……。

 ということで本欄「神保町の匠」の一部を乗っ取って、著者と一緒にカープを観戦して出版事情を取材する企画を勝手にスタートさせていただきました。この仕組みなら、試合展開がアレでもビールは楽しく飲めますからね。

 これから球場を舞台に、いろんな著者の人となりと「考えていること」を伝えていければと思います。

 第2回にご登場いただくのは、漫画家のカラスヤサトシさん。コミックエッセイという、みんな読んでいるけれど中身がよくわからない世界について、神宮球場でビールを飲みながら話を訊きました。


神宮球場にて撮影。自画像と全然違うじゃないですか、とよく訊かれるそうです。本人の答えは「小学生のころはあんな感じだったんで」とのこと
拡大神宮球場にて撮影。自画像と全然違うじゃないですか、とよく訊かれるそうです。本人の答えは「小学生のころはあんな感じだったんで」とのこと

「他人を見下したい欲」を満たす作風

――青空の下でのビールはおいしいですなあ。

カラスヤ まったく。……って野球を観ないでいいんですか? よくわからないけれど、グラウンドから目を離したらアカンのと違いますか? ほら、あのトンボかけてる人ら、めっちゃ早ないですか!

――いや、だから今はイニングの間なので、グラウンドを見ないでもいいんですよ。しかし選手じゃなくてグラウンド整備の人の技術に着目するとは、いきなり目の付けどころが独特ですね。

カラスヤ いやあ、正直、野球ようわからんのですわ。甥っ子は高校で野球部なんやけどね。

――おお、かつてのカラスヤさんの漫画で容赦のない突っ込みをされていた子どもが、もうそんなに大きくなられているのですか!

カラスヤ そうですね。なんだかんだと長く漫画家をやれていますから。デビューしたのが1995年、初単行本が1997年。それから今まで数えると……。

――(スマホで検索して)もう39冊も単行本を出されているのですね。しかもその大半が、いわゆるコミックエッセイ。これって、作者が自分を切り売りするような漫画だと思うのですが、よく続くものですねえ。

カラスヤ ええっ、何でそんな上から目線な! でもまあ、自分でもよく続いてるなと思います。

――すみません。つい作風に影響されて、失礼な口をたたいてしまいました。

カラスヤ まあたしかに、人なら誰でも少しは持っている「他人を見下したい欲」を満たしている作風になっている自覚はあるかな。編集者にも、アオリ文で「カラスヤの愚行・奇行」とか、「キモカッコワルイ」とか、さんざんな書かれようやもんなあ……。

――だからといって、私が失礼なことを言っていい理由にはなりませんね。すみませんでした。それにしても大変な仕事を重ねておられると思います。

カラスヤ 数年前、忙しさがピークやったときは12誌で連載していたけれど、かなりヤバかった。打ち合わせ中に寝落ちとか、自分も失礼なことをしていました。いつもウツロな顔をしていて、家族にも心配されてました。過労かなんだかわかりませんが、そのころ2回入院しましたし。虫垂炎と胆石で。数えてみたら、月産100枚とか描いていたんですよね。

――それじゃあネタも続かないでしょう。

カラスヤ むしろバタバタのときほどネタは出てくることは出てきますが、もう何でも描いて、ヨメから「そんなことまで描くな!」と怒られたりしてました。いつの間にか「半年以上前の出来事なら描いてもOK」という私が勝手に決めたルールができたんですけどね。描いてほしくなさそうなことはなんとなくわかってきたんでそれは避けてます。使えるネタがどうしても出ないときはあって、ほんとうに苦しかったですけどね、そのときは。

家族との心温まる……ようでそうでないような、なんとも言えない描写もカラスヤ作品の魅力です(『#庭バカ』第1話より)

拡大家族との心温まる……ようでそうでないような、なんとも言えない描写もカラスヤ作品の魅力です(『#庭バカ』第1話より)

――ではどうやってネタを仕込んだのですか。

カラスヤ 一部の編集者からは「無茶ぶりされる人」という扱いになっていました。カラスヤをどこか変なところに送り込んで、ひどい目に遭わせ、自虐的なギャグを描かせる……という。ありがたいことにそれでなんとか回っていたところもあったかも。

――うーん、編集者としては、漫画家に何かインプットすればなにがしか出てくるわけで、楽に仕事ができるというか、たしかにありがたい流れではあるかもしれません。

カラスヤ おっさんが何かひどい目に遭って編集者と口論しながら帰ってくる……そんな話を何回もカネ払って読んでくれる人が何万人もいるとは正直思えんのですが、依頼がある限り頑張りますよ! まあ、さすがにそういう系統の仕事は、40過ぎて少しずつ減ってきましたが。あっ、今度の新刊(『不倫。ダメ、絶対!』講談社)はモロにそれですね。

たしかに、モロに無茶ぶりだ!(『不倫。ダメ、絶対!』第1話より。このタイトルについては後で)拡大たしかに、モロに無茶ぶりだ!(『不倫。ダメ、絶対!』第1話より。このタイトルについては後で)


筆者

井上威朗

井上威朗(いのうえ・たけお) 編集者

1971年生まれ。講談社で漫画雑誌、Web雑誌、選書、ノンフィクション書籍などの編集を経て、現在は科学書を担当。