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カラスヤサトシさんに訊くコミックエッセイ業界

井上威朗 編集者

漫画雑誌の機能が弱くなってる

――じゃあ、日常生活を舞台にする作風へ回帰するのですか。

カラスヤ いえ、切り売りにも限度があると思います。それに、いまのコミックエッセイ業界では、そういうことをしても戦えない気がするんですわ。

――ええっ? どういうことですか。

カラスヤ エッセイマンガに限って言えば、漫画家のキャリアが読者にとって意味なくなっているんですよ。いろんな描き手が出てきました。マンガをそんなに描いてない、という意味での素人、なにかすごい経験をされてたり、なにかを極めていたりする人。そんな人たちが次々と繰り出してくるコミックエッセイと、ずっとマンガしか描いてない人間が競いつづけるのは難しい状況になっている。野球で言えば、かつてはベンチに入っている選手たち同士で戦っていたのに、いまはスタンドにいる大勢の人たち全員と勝負しなければならなくなった。エッセイは描き込みの少ない簡単な絵で大丈夫、という土壌がもとからあったからでしょうが。

――なるほど、ここで言う「ベンチ」とは、かつての「漫画雑誌」のことですね。

カラスヤ そう。自分のパフォーマンスを市場に出そうと思ったら、以前はなんとかベンチ入りしなきゃ、つまり雑誌編集部に出入りできるようにならなきゃアカンかった。そして監督つまり編集長や、コーチつまり担当編集者の言うことをちゃんと聞いて、初めて試合に出してもらえるようになる、雑誌に載せてもらえるようになるわけですね。

――野球に興味がないのに絶妙なたとえですねえ! それでコーチに潰される選手もいれば、アドバイスが自分に合っていて開花する選手もいる、と。個人的には嬉しくない話ですが、編集者が余計なことをしたせいで好きなことを描けず、ものにならなかった漫画家も多かったことでしょうねえ。

カラスヤ ああ……。編集者の意思が入って思うように描けなかった、という記憶がまったくない漫画家はいないかもしれませんね。それでも思い返すと、編集者にもプロとしてのすごみがある人はいたし、それで自分が読まれる作品を描けるようになった面もある。編集者のひどい言動もネタにできましたし。ですが、今はそんな環境ではなくなりつつあります。

――雑誌出身の人間として認めたくはないですが、雑誌が漫画の生産媒体としては徐々に機能しなくなっている、ということですね。

カラスヤ 機能はしてると思いますが、間違いなく弱くはなってるでしょ。大好きで読んでた雑誌にも、休刊・廃刊が相次いでいるのも現実やね。私自身も、雑誌の仕事は以前よりずいぶん少なくなって、だんだんスマホで読む漫画の仕事が多くなってます。原稿受け渡しもデジタル化しまして。そうなると編集者とのかかわりも薄くなっていきますね。前ほど会わない。今年に入って編集者と飲んだのなんて、これで2回目くらい。

――そりゃさびしいですなあ。じゃあもう1杯注文しましょう。球場のビール売りシステムは今も昔も機能してますからね。すみませーん、こっちにもビールを。

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筆者

井上威朗

井上威朗(いのうえ・たけお) 編集者

1971年生まれ。講談社で漫画雑誌、Web雑誌、選書、ノンフィクション書籍などの編集を経て、現在は科学書を担当。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです