2019年05月10日
「論座」トークイベント「皇室から考える女性の生き方」(5月18日)
5月1日午前、新天皇即位の儀式を伝えるNHKニュースに、新皇后雅子さまと田園調布雙葉学園で小学校から高校まで一緒だったという友人2人が出演していた。
そのうちの1人、土川純代さんはかつて大手銀行の総合職として働いていたという。雅子さまの外務省勤務と合わせ、司会の武田真一アナウンサーがそう紹介した。
「女性がバリバリ働く時代の幕開けでしたよね。働くことについて、どんなふうに語り合いましたか?」という武田アナの問いかけに、土川さんはこう答えた。
「お互いに均等法施行後の1期生として一緒にキャリアを積んで、社会貢献できるようにとよく語り合っていました」
雅子さまを考える上で、絶対に欠かせないのが男女雇用機会均等法(均等法)だ。5月18日の論座トークイベント「皇室から考える女性の生き方」でも語る予定だが、雅子さまの入省は1987年、均等法施行の翌年で「均等法第1世代」(86―90年入社の総合職女性)、土川さんの言うところの「1期生」であることが大きいと思う。
ちなみに私は均等法施行の3年前に新聞社に入ったが、「社会貢献しよう」などと友人と語り合ったことは一度もない。自分のダメさを棚に上げて続けるなら、均等法という仕組みが社会貢献をしようという発想を作ったという面も多々あったと思う。そう、第1世代の女性たちは、使命に燃えていた。
バリキャリなどという言葉は、もう死語だろうか。バリバリのキャリアウーマンの略。ハーバード大→東大→外務省と絵に描いたようなバリキャリの雅子さまが93年、皇太子さま(当時)と結婚された。だから婚約が決まった皇室会議後の記者会見で、外交官の職を捨てることに後悔はないかと質問が出たのは当然のことだった。
「いろいろと考えた結果、今私の果たすべき役割というのは殿下のお申し出をお受けして、皇室という新しい道で自分を役立てることなのではないか、と考え」決心したのだから悔いはない。それが雅子さまの答えだった。
自分を役立てる。すなわち「社会貢献」。土川さんと語り合った、その旗は降ろさない。ただ、歩く道を変える。嫁ぐというより転職。雅子さまは変わらず、使命に燃えていた。
それから10年経った2003年12月、雅子さまは公務を停止した。「適応障害」という病名が発表されたのが翌年7月で、今も療養は続いている。雅子さまに何があったのか。皇太子さま(当時)から「雅子のキャリアや人格を否定する動きがあったのも事実です」という発言があり、「あまり外国訪問ができなかったことに悩んだ」という追加の説明もあった。だが、それだけではないだろうと思った人は多かった。
中でも敏感に反応したのが、均等法第1世代の女性たちだった。彼女たちも悩んでいたから、雅子さまに自分を重ねたのだ。均等だったのは雇用機会だけ、会社は相変わらず男性ファースト。その現実を前に彼女らは、直感的に雅子さまの現状を把握した。皇室という組織が雅子さまの活躍を阻んでいる、と。
令和が始まる3カ月前に『美智子さまという奇跡』を上梓した。民間から皇室に入り、ミッチーブームを起こした美智子さま。皇后になってからも、国民の期待以上の働きをされた。その奇跡の軌跡を描きつつ、後に続く雅子さまの苦しさも書いた。
「皇室外交できますよ」と言われたのに、皇室に入ってみれば想像と違うことがたくさんあった。まず期待されたのは「お世継ぎ」だった。そういう金澤一郎さん(元皇室医務主管)の証言なども紹介した。
「読んでいて涙が出た」と言った人がいた。均等法第1世代の女性だった。あんな素晴らしい人が苦労されたことが、改めてわかった、自分も新卒で入った会社で悩んだから、心にしみた。そう感想を言った後、最近の雅子さまが明るくてうれしい。そう言って笑っていた。
皇后さまになって、雅子さまはこれまで以上に堂々とされている。5月4日には即位を祝う一般参賀で、にこやかに手を振っていた。明るい黄色のロングドレスに同色の帽子が、よく似合っていた。26年前と同じだった。
「新しい道で自分を役立てる」という決心を語った記者会見の時も、雅子さまは明るい黄色のワンピース、同色の帽子だった。出発点に帰るような思いで、同色のドレスを選んだのかもしれない。そう勝手に想像した。
とは言え雅子さまは、今も療養中である。毎年お誕生日に合わせて「東宮職医師団見解」という文書が出されている。18年12月の最新版でも、「着実に回復しているが体調に波があり、過剰な期待は逆効果だ」という説明だった。
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