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橋本じゅん、『レ・ミゼラブル』2度目の出演へ

メンバーの一員にいさせてもらえることが誇らしい

真名子陽子 ライター、エディター


拡大橋本じゅん=岸隆子撮影

 帝国劇場にて上演中のミュージカル『レ・ミゼラブル』。原作はヴィクトル・ユゴーが自身の体験を基に、19世紀初頭のフランスの社会情勢や民衆の生活を克明に描いた大河小説で、原作の持つ「無知と貧困」「愛と信念」「革命と正義」「誇りと尊厳」といったエッセンスがミュージカル『レ・ミゼラブル』に注ぎ込まれています。1985年のロンドン初演を皮切りに、全世界で観客総数7,000万人を超える『レ・ミゼラブル』(=レミゼ)は、日本でも1987年の初演以来30年以上、上演回数3,100回を超え、今もなお進化し続けている作品です。

 2017年に続き、宿屋の主人テナルディエ役で2度目の出演となる橋本じゅんさんの取材会が行われ、初心に立ち返ったというカンパニーのことや、読み聞かせてくれた「ああ無情」がきっかけでレミゼに憧れたこと、大っ嫌いだったというテナルディエ役について、そして『レ・ミゼラブル』という作品が伝えたいことなど、ユーモアを交えながらも真摯に語ってくれました。

芝居をやっていて良かった

記者:2017年に初めて『レ・ミゼラブル』に出演されました。その時の感想をお願いいたします。

橋本:芝居をやっていて良かったなと思いました。キャリアを重ねていらっしゃる方々ばかりなのに、ものづくりの場として初心に立ち返らせていただきました。舞台に立ち始めた頃に、ああでもないこうでもないと言っていた創作の場が、この『レ・ミゼラブル』にはあります。ミュージカルの現場というよりも、ものを創っている現場でしたね。そして、音程やピッチ、動きや気持ち、そうした演劇に必要な要素がすべて入っているという感動がとても大きかったです。

記者:これまでになかった感覚だったんでしょうか?

橋本:なかったことではないんです。例えば映像作品だと、同じ作品に出ているのに、まったく会わずに収録が終わることが当たり前なんです。それが僕にとって当たり前になり始めていたんです。でもこの作品は、ダブルキャストからクワトロキャストまであって、全員が同じ動きをしないと事故になるので勝手なことはやれない。だから、他の方の稽古を見るんですよね。そうしたら、同じ役でもこういう考え方があるんだと強烈な刺激を受けるんです。だからずっと稽古場で人の芝居を見るわけです。それも何組も組み合わせが変わりますし、自分が居るべきシーンなのに、自分がいない稽古をパターンを変えて見る。それはレミゼならではで、こういう風に見えているんだとか、こうやったらこういう風に伝わるんだとか、すごく勉強になります。

いつも心は“じゅん・バルジャン”

拡大橋本じゅん=岸隆子撮影

記者:橋本さんにとって『レ・ミゼラブル』という作品は?

橋本:この世の中は理不尽なことが多いです。空に向かって「なんでですかっ!?」って言いたくなるようなことがあるけど、生きていかなきゃいけない。けれどそんな中でも、恋人同士、夫婦、そして親子の愛は全世界で普遍的なことだと思うんです。動乱に引き裂かれていく恋など、誰が見てもわかりやすい話がたくさん詰まっている中に素晴らしい楽曲が入っています。そのメンバーの一員にいさせてもらえることを誇らしく思います。

 僕、小学生の頃から「ああ無情」が大好きだったんです。給食の時間に先生が読み聞かせてくれて、毎日楽しみにしていたんです。そしてミュージカルになったレミゼを観てから、いつかやってみたいという思いがずっとありました。でも歌に自信がないので、『レ・ミゼラブル』なんて……と半ばあきらめていたんですけど出演することができて、思いを持ち続けて良かったなと思いました。僕はこの世界観に“どハマり”したんですね。正しいことを言う人、悪いことをした奴は改心しても罪は罪なんだと許さない人、お前たちはお前たちの美学をやればいい、俺たちには明日が見えないんだと言う底辺にいる男たち。その三つ巴の話なんですよね。

記者:テナルディエをどのように捉えて演じられたんでしょうか?

橋本:僕も食べていけなくなったらテナルディエみたいなことをするかもしれないと思うんです。治安が乱れてどうやって食べていくの?という非常時に、聖人君子のようなことを言う自信はないです。テナルディエという役を通して、人間の本質の代表を創れたらなと思っています。テナルディエも食べるものがあれば、ああいう人生を送っていなかったんじゃないかな。いずれ何かで捕まったかもしれないけれどね。

記者:小学生の頃はテナルディエが大嫌いだったとか。

橋本:大っ嫌いでした。コゼットがかわいそうで、かわいそうで。いつも心は“じゅん・バルジャン”(笑)でした。ジャン・バルジャンはなんていい人なんだ、もう捕まえないでって、本気で思っていましたから。

どんな人でもテナルディエになる可能性を持っている

拡大橋本じゅん=岸隆子撮影

記者:自分が演じることになって好きになりたいと思ったそうですね。

橋本:好きになりたいですけど、やっぱり嫌な奴です。ただ、レミゼの世界をよりお客さまに強く届けたいので、自分の役を全うすることで役に立ちたいと思っています。自分なりのテナルディエを、自分なりの神を持った人間として演じたいです。自分がしっかり立たないと周りが立たないので、その使命感と義務感を持って演じています。

記者:演じている時は俺が神だと思っているんですか?

橋本:「すべて俺の意のままにしてやるぜ、その代わりセコイけどなぁ」ってね(笑)。謝る時は靴をも舐めるけど、でも俺は捕まらないぜと。神という表現が当たるとすれば、自分は不死身だと信じて、なんとしてでも神のように生き残ってやるという、地下深くにいる人ですね。でも、どんな人でもテナルディエになる可能性を持ってるなと、演じてみて思いましたので、なぜこの人はこうなったんだろうとお客さまに感じてもらえるのが理想です。

記者:テナルディエを演じる中で、好きなシーン、大事にしているシーンはありますか?

橋本:マダム・テナルディエとの夫婦の在り方ですね。トリプルキャストでそれぞれパーソナリティがありますので、この人とは自分のどこがコネクトされたんだろうと考えて、お互いに足りないところを補いながら夫婦でいること、そこをすごく気をつけています。後はやはり音程です。音程にすごくキャラクターが描かれているんですね。「宿屋の主人の歌」なんて、すごく気持ち悪いんですよ。低音でゆっくり始まって、ホラー映画かと思うくらい。そんな低い声に笑顔を乗せて歌えと言うんです(笑)。低い声を出そうと思ったら表情も暗くなるんですけど、でも笑わないといけない……。いろいろありますが、でもそこに立ち向かっているときにみんなで創っている感覚があって、だからキャスト同士はすごく仲が良いですし劇団みたいです。

お腹いっぱいだったら幸せ

拡大橋本じゅん=岸隆子撮影

記者:今回初めて大阪でテナルディエを演じます。

橋本:大阪だから変わるということはないですが、前回は東京公演だけでステージ数が少なかったので、もう少しどっぷりとこの『レ・ミゼラブル』の世界を旅していたかったなと思いました。今年は長く旅ができますし、なおかつ地元の関西で観ていただけるのはうれしいです。大学時代はミュージカルコースだったので、あの橋本がレミゼに出るのかと言う友人もいます(笑)。同じ気持ちで演じないといけないのですが、やはり緊張もしますし気分も高揚しますよね。橋本が出てるから観に行くというお客さまで、梅芸が溢れかえったらいーなあ(笑)。そんな理想はあります、いつかね。

記者:芝居の初心に戻れたのは大きかったですか?

橋本:やはり大きかったです。蜷川(幸雄)さんの現場もその匂いがあって好きだったんですけど、『レ・ミゼラブル』の現場はより強いですね、手作り感が。ちょっと意外と感じるかもしれませんが、あーでもないこうでもないって言いながら創るんですよ。この年齢になってこういう現場にいられるのは背筋が伸びるというか、映像をやるときも劇団☆新感線をやるときも、こういう気持ちを忘れてはいけないなと、この現場は教えてくれます。

記者:では最後にメッセージをお願いいたします。

橋本:どの人がどういう人生を歩んでいるのかを観て欲しいです。綺麗事かもしれませんが、お腹が膨れてたら争いは起きないんだよというメッセージです。こんなきな臭い世の中ですけど、お腹いっぱいだったら幸せなんですよ。欲しいものは買えていないかもしれないけれど、お腹いっぱいな日々を過ごせてる自分たちは、めちゃめちゃ幸せなんだなと僕は思うんです。そこまで感じていただくのは難しいかもしれませんが、物語はよく観て欲しいなと思います。人というのはパン一個でこんなことになってしまうんだと。そんな普遍的な物語をぜひ観に来ていただければと思っております。

◆公演情報◆
ミュージカル『レ・ミゼラブル』
東京:2019年4月19日(金)~5月28日(火) 帝国劇場
※プレビュー公演:2019年4月15日(月)~4月18日(木)
名古屋:2019年6月7日(金)~6月25日(火) 御園座
大阪:2019年7月3日(水)~7月20日(土) 梅田芸術劇場メインホール
福岡:2019年7月29日(月)~8月26日(月) 博多座
北海道:2019年9月10日(火)~9月17日(火) 札幌文化芸術劇場hitaru
公式ホームページ
[クリエイティヴ]
作:アラン・ブーブリル&クロード=ミッシェル・シェーンベルク
原作:ヴィクトル・ユゴー
作詞:ハーバート・クレッツマー
オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ
演出:ローレンス・コナー、ジェームズ・パウエル
翻訳:酒井洋子
訳詞:岩谷時子
[キャスト]
ジャン・バルジャン:福井晶一、吉原光夫、佐藤隆紀
ジャベール:川口竜也、上原理生、伊礼彼方
ファンテーヌ:知念里奈、濱田めぐみ、二宮愛
エポニーヌ:昆夏美、唯月ふうか、屋比久知奈
マリウス:海宝直人、内藤大希、三浦宏規
コゼット:生田絵梨花、小南満佑子、熊谷彩春
テナルディエ:駒田一、橋本じゅん、KENTARO、斎藤司
マダム・テナルディエ:森公美子、鈴木ほのか、朴璐美
アンジョルラス:相葉裕樹、上山竜治、小野田龍之介
ほか

筆者

真名子陽子

真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター

大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。

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