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「日本というお母さん」記事の改変と跋扈

早川タダノリ 編集者

1941年12月8日、日本軍はタイに進駐した。写真は進駐する日本軍に日の丸を振って歓迎するタイ在留邦人拡大1941年12月8日、タイに進駐した日本軍に日の丸を振って歓迎するタイ在留邦人

「日本人としての誇り」って安いんだなー

 ところで、この土生本での「八月十五日」記述の「発見」は、名越のオリジナルから離れた別系統のミーム(模倣子)を生み出した。「八月十五日」がくっついているプラモート「記事」の引用を、市販された書籍で見つけた限り挙げてみると、例えば田母神俊雄『自らの身は顧みず』(WAC、2008年、115頁。引用元出典なし)、吉本貞昭『世界が語る大東亜戦争と東京裁判――アジア・西欧諸国の指導者・識者たちの名言集』(ハート出版、2014年、引用元としては表記されていないが、参考文献に土生本が挙げられている)などがある。

 この吉本貞昭『世界が語る大東亜戦争と東京裁判』は、「これまで著者が大東亜戦争と東京裁判を研究する上で、導きの星として仰いできた、アジア・アフリカ・南米・西欧諸国の指導者と識者たちの名言を本書に掲載した」(13頁)というしろもの。しかも全体の約半分が260名分の日本を褒めてくれるありがたい「名言」で占められていて、そのほとんどに出典がついていないため、紹介されている「名言」がホントかどうか裏付けを探そうとしても、膨大な労力を必要とするすさまじい本だった。

 吉本は「はじめに」で、

 本書に掲載した名言は、まるで宝石のように今もなお、その輝きを放って我々に生きる勇気と希望を与えてくれるのである。
 日本人は、これらを通して、かつて日本が大東亜戦争中に蒔いたアジア解放と大東亜共栄圏の種が実って、戦後、アジア・アフリカ・南米諸国が独立し、発展できたこと、そして、日本がそれらに大きく貢献した国であることに対して、もっと大きな自信と誇りを持つべきなのである。(13―14頁)

 と書いている。「日本が大東亜戦争中に蒔いたアジア解放と大東亜共栄圏の種が」戦後アジアに実った……戦時下の大東亜共栄圏構築に向けたプロパガンダを真に受けた、なんともトホホな意気がりである。けれども本書のコンセプトの骨組みがこれであり、日本人に「大きな自信と誇りを持つべきなのである」と訴える陳腐なメッセージに共感する陳腐な人物たちには天上からの福音として聞こえるのだろう。

 じっさい、〈日本がアジアを解放した〉〈侵略戦争ではなかった〉論のありがたい「名言」カタログとしてこの本は活用されており、例えばユーチューバーのKAZUYA ・・・ログインして読む
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筆者

早川タダノリ

早川タダノリ(はやかわ・ただのり) 編集者

1974年生まれ。国民統合の技術としての各種イデオロギーに関心を持ち、戦前・戦時の大衆雑誌や政府によるプロパガンダ類をはじめ、現代の「日本スゴイ」本などを蒐集。著書に『「日本スゴイ」のディストピア――戦時下自画自賛の系譜』(朝日文庫)、『神国日本のトンデモ決戦生活』(ちくま文庫)、『「愛国」の技法――神国日本の愛のかたち』(青弓社)、『原発ユートピア日本』(合同出版)、『憎悪の広告――右派系オピニオン誌「愛国」「嫌中・嫌韓」の系譜』(合同出版、能川元一氏と共著)、『まぼろしの「日本的家族」』(青弓社、編著)などがある。