メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

無料

矢崎広がレイモンド・カーヴァーの世界に誘う

いったん入ってしまったら抜け出せずに虜になっていた

米満ゆうこ フリーライター


拡大矢崎広=岸隆子撮影

 アメリカ文学界の短編の名手、レイモンド・カーヴァーの作品を、日替わりで多彩な俳優が届けるリーディング・シアター『レイモンド・カーヴァーの世界』が、5月25日、26日に兵庫県立芸術文化センター、5月30日~6月2日に六本木トリコロールシアターで上演される。カーヴァーは村上春樹が翻訳して日本ではその名が知られ、没後31年になる今でもコアなファンが多い。「カーヴァー作品の虜になった」という、出演者のひとりである矢崎広が、公演に先立ち取材会を開いた。

カーヴァー×村上春樹の組み合わせでより面白い

拡大矢崎広=岸隆子撮影

 カーヴァーは、アメリカ西海岸や中西部などに住むごく普通のアメリカ人の生活を、シンプルな表現で淡々と静かに描き出す。また、村上春樹が訳し〝村上流〟の独特の言い回しや、文章のリズムも魅力的だ。矢崎は「今回初めて作品を読んだのですが、本当に不思議な世界のお話で、公演のタイトル通り、カーヴァーの頭の中に潜り込んだみたいな印象を受けました。読み進めるときは、重たい扉を開けるようだったのですが、いったん、入ってしまったら、抜け出せない。出るころには虜になっていた。カーヴァーと村上さんというすごい人とすごい人の組み合わせで二重により面白く入っていける。村上さんの言葉で朗読できるのも光栄ですし、楽しみです」と期待を込める。

 矢崎が担当するのは『収集』と『菓子袋』という短編。『収集』は、ある日突然、男の家に物売りが訪ねてきて、掃除サービスとカーペットのシャンプーを始める。「謎だらけです。なんで物売りがやって来るんだろう、果たして主人公は一体誰なんだろうと。謎だらけだけど謎解きではなく、迷路に迷い込んだみたいな面白い感じがある。カーヴァーと村上さんの言葉の力ですが、家の中の雰囲気がすごく想像できるんです」。『菓子袋』は空港で久しぶりに再会した親子の物語だ。父親が息子に、母親との離婚の原因になった浮気の詳細を語り出す。「さらにこの話で迷路に迷いこませる(笑)。なんで父がこのタイミングで浮気の話をして、何をもって菓子袋なのか。シチュエーションや、父、話を聞かされる子どもの顔、菓子袋を持つ手すら浮かびます」。どちらも他者、親子を通してぎこちなく、出口の見つからない人間関係を描いている。「不思議な迷路に迷いこませることが、カーヴァーの思う人間の関係性なのかもしれません」

お客さまがむずがゆくなったら、僕としてはやったー!

拡大矢崎広=岸隆子撮影

 カーヴァーの描く世界はオチがなく、置いてけぼりを食らったような感覚になるのもツボだ。「僕はおっとっとと思いました。お客さまもおっとっとと思うんでしょうね(笑)。そこがもう最高だなと」。アメリカの乾いた砂漠で水を求めて歩いているような気分だ。しかし、読後はポタポタと雫のように何かが落ちて心に留まる。「そこから抜け出せない不思議な世界です。この後、登場人物たちはどうなったのだろう。怖い目にあったらどうしようと想像がたくさん膨らむ。僕はそこ推しでいきたいです。お客さまがむずがゆくなったら、僕としてはやったー!ですね。オチはお客さまそれぞれが想像を膨らませてもらうのもいいですが、僕は何か答えを一つ決めて挑むと思いますので、それがお客さまに伝わって、本よりは具現化されると思うんです。僕のオチとお客さまのそれぞれのオチを持ち帰ってもらいたいですね」

 リーディング・シアター『レイモンド・カーヴァーの世界』は、昨年に続いて2回目。演出は新進気鋭の谷賢一が手掛け、前回は、ピアノの生演奏や映像を交えながら、俳優が作品を椅子に座って朗読したり、一人芝居のように演じたりと個性豊かに表現し、小説でしか知らなかった世界がドンドンと広がっていく感覚を受けた。今回も同じ手法を取る。「朗読劇は過去に何回もやっていますが、一人で読むのは初めてです。今までは相手役がいるから、向こうからきたものをキャッチし、自分でもボールを投げていた。今回は各々が一人なので、僕にとっては初の挑戦で、作り込まなくてはいけないなと背筋が伸びました。谷さんは役者に合わせてアプローチしてくださると思うので、自分にあう部分を探していければ」。谷の演出を受けるのは初めてだ。「すっとしていて、頭がツンツンのヘアスタイルで、イケメン演出家。頭もいいし、モテるだろうなという印象です(笑)」。役者陣は、矢崎のほか、仲村トオルが『コンパートメント』、手塚とおるが『ダンスしないか?』『もうひとつだけ』、平田満が『愛について語るときに我々の語ること』をそれぞれ朗読する。「大先輩の方々と出演するのは、とても光栄で緊張しますが、若い世代の方が、僕を扉にカーヴァーの世界に入ってくれるようにしたいです。先輩方の朗読は、僕は舞台の袖でめちゃくちゃ直立不動で見ていると思います(笑)。個人的には、昔から仲村トオルさんによく似ていると言われるので(笑)、ついにお会いできるなと楽しみですね」

血が騒いだら何でもやってみたい!

拡大矢崎広=岸隆子撮影

 矢崎は2004年にミュージカル『空色勾玉』でデビュー。確かな歌唱力と表現力で、ミュージカル、音楽劇、ストレートプレイ、ドラマ、映画、声優など活動の幅を広げてきた。「自分の中で血が騒いだら何でもやってみたい。これは面白いと何か自分で信じられるものがあると、何でも挑戦したいと思うんです。今の自分はどんな役をいただいてもやりたいし、ありがたい。何も役がこなかった時代もありましたが、今は責任が重い役が増えてきている。自分よりも大きな役がきたら、そこに合わせてドンドンドンドン自分も大きくなっていきたい。自分を磨きながら、役に追い付け追い越せですね」

 また、今まで出演したすべての作品が糧になっていると言い切る。「この作品は…という黒歴史はなくて、一つひとつやってきたことが、自分の積み上げになっている。これからもそうだろうと思います。2.5次元、ミュージカル、ストレートプレイ、ドラマ、映画、朗読劇など色々とありますが、どんなジャンルも分け隔てなく、境界線がなくなればいいですね。僕自身もどんな作品に入っても臨み方は一緒です。とにかく血がたぎれば何でもやりたい」と意欲的だ。

 今作に懸ける思いも強い。「朗読でカーヴァーは難しそうだなという印象を受けるかもしれませんが、食わず嫌いはせず、ぜひ、食べてほしい! 朗読劇は、最近は色んなところで上演されていて、僕はそのアプローチが大好きです。舞台でもないし、ただ本を読むわけでもない。お客さまと共有する時間がたくさんある。お客さまと舞台を一緒に作る魅力にとてもハマっています。今回もカーヴァーの色んなタイプの作品が揃います。どこか生っぽく、不思議なところは誇張したら、カーヴァーの不思議な魅力がより伝わるのではないかと思います」

◆公演情報◆
リーディング・シアター
『レイモンド・カーヴァーの世界』
兵庫:2019年5月25日(土)~5月26日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
東京:2019年5月30日(木)~6月2日(日) 六本木トリコロールシアター
公式ホームページ
[スタッフ]
作:レイモンド・カーヴァー
翻訳:村上春樹
演出:谷賢一
[出演]
仲村トオル、矢崎広、手塚とおる、平田満
ピアノ演奏/阿部篤志

筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

「三度の飯よりアートが好き」で、国内外の舞台を中心に、アートをテーマに取材・執筆。ブロードウェイの観劇歴は20年以上にわたり、ブロードウェイの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて、現地で取材をしている。

米満ゆうこの記事

もっと見る