メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

 ハワード・ホークス監督は、サイレントからトーキーの時代にまたがり(1926~1970)、戦争映画、航空活劇、ギャング映画、西部劇、海洋活劇、古代史劇、動物狩り映画、ミュージカル、SFホラー、フィルム・ノワール、スクリューボール(奇人変人)・コメディなど、ほとんどすべての映画ジャンルを制覇したハリウッド古典期の巨匠だが、なんとその作品34本(!)が、東京・シネマヴェーラ渋谷で特集上映されている(シネマヴェーラのホークス特集第1回は、山田宏一のセレクションのもと、2016年12月~2017年1月に開催)。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Hawks_portrait_crop.png拡大ハワード・ホークス監督(1896―1977)    https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Hawks_portrait_crop.png
 とりわけ今回は、前回同様、ホークス映画の最も興味深いジャンルのひとつ、スクリューボール・コメディが8本も上映される。まったくもって、シネマヴェーラの選球眼には恐れ入るばかりだが、スクリューボール・コメディのラインナップは、『特急二十世紀』(1934)、『赤ちゃん教育』(1938)、『ヒズ・ガール・フライデー』(1940)、『教授と美女』(1941)、そのリメイク『ヒットパレード』(1948)、『僕は戦争花嫁』(1949)、『モンキー・ビジネス』(1952)、『紳士は金髪がお好き』(1953)。いずれも必見作である。

 スクリューボール・コメディとは、1930年代~60年代のハリウッド古典期に撮られたコメディのサブジャンルだが、このユニークな喜劇では、ヒロインの美女が活発さと性的魅力で男を圧倒し、エキセントリックだが利発な振る舞いによってまんまと“男/夫狩り(マンハント)”に成功するさまが、しばしば丁々発止の会話、頓狂なギャグの連発によって――一度ならず豹、チンパンジー、クマ、犬などの動物の闖入もまじえて――、狂騒的かつロマンチックに描かれる(スクリューボール・コメディでは、婚約期間という宙吊り状態/サスペンスが巧みに活用されることが多いが、ヒロインに翻弄される主人公の男もしばしばスクリューボール/変人である)。

 また、活発で積極的・行動的なヒロインはあくまで無邪気で、男に媚びへつらったり、心理的駆け引きを弄することが一切ない点もミソだ。彼女らは多くの場合、男に接近するきっかけを自分から積極的に作り、その後も男に対して主導権を握りつづける(スクリューボール・コメディでは、男女のセックスもあくまで暗示的なセリフで軽妙にほのめかされるだけだが、この点についての映画史的・時代的背景については次稿以降で後述)。

 以下ではまず、スクリューボール・コメディを中心に、何本かのホークス映画を取り上げたいが、それら以外の本特集の演目も必見であることは言うまでもない。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
Journalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

藤崎康の記事

もっと見る