メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

美輪明宏の『毛皮のマリー』

美醜入り交じる世界、愛が包む

山口宏子 朝日新聞記者

美輪明宏の『毛皮のマリー』拡大毛皮のマリーを演じる美輪明宏(右)と下男役の麿赤兒=御堂義乗氏撮影

 美輪明宏は、破格のスケールで現代社会を刺激し続ける表現者だ。テレビ画面を通しても迫力は十分伝わるが、生の舞台に触れると、その「威力」に全身が包みこまれる。

 この20年余、美輪はパルコ製作で、春に演劇公演、秋に音楽会をコンスタントに続けている。今年の春は、『毛皮のマリー』(東京、福岡、名古屋、大阪で5月26日まで)に取り組んだ。寺山修司が52年前に美輪のために書いた作品だ。

 写真家・御堂義乗による多彩な写真を紹介しながら、美と醜、聖と俗が渾然一体となった、美輪と寺山の世界をご案内しよう。

劇場はロビーから別世界

美輪明宏の『毛皮のマリー』拡大ロビーに飾られた花、花、花……=御堂義乗氏撮影

 『毛皮のマリー』公演で美輪は、主演だけでなく、演出と美術も手掛けている。演出は舞台の上だけでなく、劇場全体に及んでいる。

 4月の東京・新国立劇場公演。中劇場の広いロビーは花であふれていた。演劇興行で、上演を祝って贈られる生花や鉢植えは、出演者の交友関係の広さと人気を示す一つの指標といえるが、それにしても壮観だ。

美輪明宏の『毛皮のマリー』拡大劇場ロビーの人気撮影スポット「麗人だより」のコーナー =御堂義乗氏撮影
美輪明宏の『毛皮のマリー』拡大「麗人だより」コーナーの人形 =御堂義乗氏撮影

 おびただしい数のバラ、ユリ、ラン、ラン、ラン……。観客たちは歓声をあげて、スマホのレンズを向けている。美輪の人形が飾られた公式携帯サイト「麗人だより」を紹介するコーナーも人気の撮影スポットだ。「美輪テーマパーク」という言葉が頭に浮かぶ。

 客席に入ると、たきしめた香がほのかに漂い、通路の無表情な床には、一部だが赤いカーペットが敷かれた。携帯電話の電源を切るように、という開演前のアナウンスも「美輪仕様」。低い声の女性が丁寧な言葉遣いで語りかけ、「せきをするときは口にハンカチを当てて」などと、他人への配慮を促す「教え」も盛り込まれる。確かに、劇場で無遠慮なせきやくしゃみで観劇のじゃまをされることがある。美輪が指揮を執るこれからの数時間は、そんな不快なことのなきように、観客も演出されるのだ。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

山口宏子

山口宏子(やまぐち・ひろこ) 朝日新聞記者

1983年朝日新聞社入社。東京、西部(福岡)、大阪の各本社で、演劇を中心に文化ニュース、批評などを担当。演劇担当の編集委員、文化・メディア担当の論説委員も。武蔵野美術大学非常勤講師。共著に『蜷川幸雄の仕事』(新潮社)。

山口宏子の記事

もっと見る