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「三谷かぶき」ができるまで(上)

歌舞伎座でロシアが舞台の異色作

山口宏子 朝日新聞記者

原作漫画は連載40年

 幸四郎が再び三谷に歌舞伎台本の執筆を依頼して始動したのが、今回の『月光露針路日本』だ。

 原作の『風雲児たち』は、長編歴史ギャク漫画。三谷はエッセーやインタビューで好きな作品として、度々その名をあげている。

 漫画の連載が始まったのは、ちょうど40年前の1979年。現在も「月刊コミック乱」(リイド社)で『風雲児たち 幕末編』の連載が続いている。単行本は『ワイド版 風雲児たち』全20巻と、続編『風雲児たち 幕末編』が32巻まで、合計52巻が刊行されている。

三谷かぶき拡大『風雲児たち』の表紙 ©みなもと太郎/リイド社
三谷かぶき拡大漫画「風雲児たち」に登場する大黒屋光太夫 ©みなもと太郎

 三谷は、この漫画をもとに、ドラマ「風雲児たち~蘭学革命(れぼりゅうし)篇」の脚本を書き、2019年1月1日にNHKで放送された。「解体新書」翻訳のエピソードを中心にしたこの作品では、片岡愛之助が前野良沢を演じた。

 今回の歌舞伎の主人公は、伊勢の船乗り、大黒屋光太夫。ロシアをさすらった彼の運命は、井上靖の『おろしや国酔夢譚』や、吉村昭の『大黒屋光太夫』といった歴史小説でも描かれている。だが三谷は、『風雲児たち』の、悲劇的な状況も笑いに転化してしまうものの見方に、より強くひかれるという。

 例えば、小さな島に流れ着いた光太夫らが、ロシアの船が近づいてくるのを見つける場面。「これで助かる」と喜ぶ彼らの目の前でその船は座礁し、船に乗っていたロシア人たちも、漂流民になってしまう。

 「つらく残酷なシーンだけれど、笑えるんですよ。助かると思ったのに、ただ(漂流する)仲間が増えただけじゃないか、というこっけいさ。そこに感動した。確かにそういう見方もある。出来事としては悲壮感たっぷりだけれど、運命のおかしさが寄り添っているんです」

 歴史を見るみなもとのそうした視点を尊重しながら、三谷は歌舞伎台本を執筆した。だが、一点、原作から大きく離れた部分があるという。

 「みなもとさんにご了解いただいて、歌舞伎は光太夫の成長物語にしました。原作では初めからしっかりした人物なのですが、歌舞伎では、頼りない男が10年間で成長してゆく姿を描いています」

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筆者

山口宏子

山口宏子(やまぐち・ひろこ) 朝日新聞記者

1983年朝日新聞社入社。東京、西部(福岡)、大阪の各本社で、演劇を中心に文化ニュース、批評などを担当。演劇担当の編集委員、文化・メディア担当の論説委員も。武蔵野美術大学非常勤講師。共著に『蜷川幸雄の仕事』(新潮社)。

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