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喫茶店でも落語会。寄席とは一味違う楽しみ方とは

トーキョー落語かいわい【2】毎日どこかで落語会。楽しみ方もいろいろなようで……

鶴田智 朝日新聞社財務本部グループ財務部主査

生まれ育った地で落語会を。夢をかなえた会社員

 この落語会が始まったのは「やまぼうし」がオープンしてほぼ1年後。店主の川島忠興(63)は化粧品会社の元社員ですが、実家を改造し、退職後、喫茶店を開店しました。川島はその店で、落語会を開くことが念願でした。生まれ育った地元で、地域の皆さんに、なまの落語を見せたい、聞かせたいと思ったからです。

拡大金原亭馬生直筆という色紙。落語「道具屋」の一場面が描かれている=川島忠興提供
 「以前はにぎわっていた近くの商店街も寂しい」し、住んでいるお年寄りたちは、足が弱ると新宿などの寄席にも気軽には行きにくい。そんななか、「地域にはそれほど娯楽がないけど、近所であれば来やすいのでは」「みんなが集まれる場所で、喜んでくれるようなことをしたかった」そうです。

 川島は、20代の頃に繰り返し見た先代の金原亭馬生の高座が忘れられません。店には今も、馬生の直筆という色紙が飾ってあります。その一方で、当時、レストランで落語を見た体験が忘れられず、「目の前で落語を聞かせてくれるのがうれしかった」と話します。喫茶店を作る時から落語会を念頭に、天井の照明器具もレールで動かせるようにしました。

 退職後、会社員時代の知り合いのつてをたどって落語家を探し、好吉と知り合いました。回を重ね、喫茶店に来る客の中には、「ここで落語をやっているんですか」「まだ落語を聞いたことないけど一度聞きに来たい」と話す人もいます。

収入面で落語家を支える

 こうした落語会は、落語家にとって大切です。収入面はもちろんで、「(若手の落語家同士は)どうやって食べてるんだろうと、お互いに思ってる所があります」とある落語家がこっそり教えてくれました。いわゆる「二ツ目あるある」だとか。

 収入面だけではありません。人前で話すことが何よりも芸の上達に結び付くといいます。好吉は「10回の一人稽古より、1回でも人の前で話すことが大切。人数の多い少ないに関わりなく」と話します。

 若手の二ツ目にとって、定期的に話せる会がある安心感は大きいようです。落語を聞いたことがない人に、落語を「聞いていただく」機会になるのも嬉しいのです。

拡大好吉の口演を楽しむ客たち=2019年1月(筆者撮影)


筆者

鶴田智

鶴田智(つるた・さとし) 朝日新聞社財務本部グループ財務部主査

1984年朝日新聞社入社。地域面編集センター次長、CSR推進部企画委員、「声」欄デスク、校閲センター記者を務める。古典芸能にひかれ、歌舞伎はよく観劇、落語は面白そうだと思えばできるだけ見に行く。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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