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ドミンゴの遊び心が生んだ手のひらの上の妖精

秘話で綴るクラシック演奏家の素顔(1)「私の中にはアイデアが詰まっている」

伊熊よし子 音楽ジャーナリスト・音楽評論家

ダークスーツで決め、オペラハウスのロビーに

拡大プラシド・ドミンゴ ©Sheila Rock/DG
 ドミンゴには長年インタビューを続けているが、2016年9月18日に彼が総監督を務めるロサンゼルス・オペラで話を聞いたときは、非常に印象深かった。

 なぜなら、彼は前日の17日に初日を迎えたヴェルディのオペラ「マクベス」で主役をうたい(この役はテノールではなくバリトン)、その夜は初日ならではのパーティが深夜まで続けられ、ドミンゴは最後のお客さまが帰るまでずっとホストを務めていたからである。

 私のインタビューは翌日18日のお昼すぎ。関係者はみな「きっと無理だよねえ、今日の明け方までパーティがあったのだから。大幅に時間がずれると思いますよ」と話していた。

 ところが、ドミンゴは午後1時半にはビシッとダークスーツで決め、元気にインタビュー会場であるオペラハウスのロビーに現れたのである。

 「やあ、わざわざ日本から来てくれてありがとう。今回は、来年の日本公演の話が中心なんだっけ?」

「膝を曲げて小さくなってくれ」

 ドミンゴはソプラノのルネ・フレミングとともに2017年3月、たった1夜のデュオ・コンサートのために来日することになっていた。これはその事前の記事展開のためのインタビューであり、撮影を含めて2時間ほど時間をもらっていた。

 他の撮影や取材もあり、それから4時間というもの、ドミンゴは私たちの要求に応え、ずっと笑顔で対応してくれたのである。途中でタキシードにも着替えてもらい、さまざまな撮影を行った。

 しかし、やはり疲れが出たのか、同じポーズを何度も取ったり、撮影が長引いてきた段階で、ちょっと飽きたような表情を見せた。それでも撮影は続いていた。

 そのときである。

 私は自分のインタビューか終わり、日本に連絡をするためにドミンゴから少し離れたところで携帯でメールを送っていた。すると向こうから大きな声が聞こえてきた。

 「Yoshiko、その場で膝を曲げて小さくなってくれ。横を向いて、前かがみになってくれないか。天使や妖精のようにおだやかに笑いながら、ちょっとこっちを向いてみて。そうそう、もっと小さくなって、もっともっと。いま、私はひとつのアイデアを実現しようとしているんだよ。私の手のひらにきみが乗っているような写真を撮りたいんだ」

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筆者

伊熊よし子

伊熊よし子(いくま・よしこ) 音楽ジャーナリスト・音楽評論家

東京音楽大学卒業。レコード会社勤務、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、1989年フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。アーティストのインタビューの仕事も多い。近著に『35人の演奏家が語るクラシックの極意』(学研プラス)。その他、『クラシック貴人変人』(エー・ジー出版)、『北欧の音の詩人 グリーグを愛す』(ショパン)、『図説 ショパン〈ふくろうの本〉』(河出書房新社)、『伊熊よし子のおいしい音楽案内―パリに魅せられ、グラナダに酔う』(PHP新書)、『クラシックはおいしい アーティスト・レシピ』(芸術新聞社)、『たどりつく力 フジコ・ヘミング』(幻冬舎)など著書多数。http://yoshikoikuma.jp/

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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