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【1】浪曲師の、とある一日

絶滅危惧芸能を受け渡し

玉川奈々福 浪曲師

令和でも昭和?な定席で

 とはいえ、初回なので、旅に出る前に、浪曲師の、とある一日の様子を、つづってみたいと思います。

 浅草に、日本で唯一残った浪曲の定席の寄席小屋があります。

 浅草寺を拝んで、90度左に向くと、五重塔の向こうに「おまいりまち」と書かれた門が見える。このおまいりまち商店街に入って50メートルほど歩いた右側に、色鮮やかな幟のはためく、

 「え? ここは令和でも平成でもなく……昭和?」

 という雰囲気の小屋が見えます。2階が大衆演劇の木馬館、1階が浪曲定席木馬亭。

奈々福の浪曲旅日記拡大東京・浅草の木馬亭。都内で唯一の浪曲の定席だ=森幸一氏撮影

 毎月1日から7日まで、昼の12時15分から16時すぎまで、浪曲7本と講談1本を上演する寄席が開かれています。

 今日は木馬亭の出番。開演は12時15分ですが、わたくしの出番は3番目で、12時55分のアガリ(舞台に出る時間のこと)。

 前座の頃は、朝10時に寄席にはいって、舞台や楽屋の拭き掃除から始めたものです。

 わたくしはつらく悲しい経験を何度もしてきています。

 後輩たちが何人も入ってきた。でも何人も辞めて行った。

 だから心が用心して、いつでも前座に戻れるようにと、前座さんの入る時間に楽屋入りするのが常でした。が、あるとき弟弟子に、

 「姉さん、早く来られると前座が困りますからいい加減にしてください」

 えええええ???

 弟弟子に叱られました。自分たちを少しは信用しろと、言うわけです。

 ふん。なによ、なんにもわかってないくせに、と思いつつ、しかたなく、いまは出番の2時間前くらいに入ります。

 商売の声を出す、4時間以上前に起きること。これ、鉄則。

 浪曲は舞台で、独特の発声で強い声を出します。起き抜けは声が出ません。声帯が起きて十全に稼働してくれるまで最低4時間はかかる。ので、13時に舞台に上がるのなら、9時には起きなければならない。いや、舞台は13時だけれど、その前に楽屋で「声出し」をするから、8時には起きます。

 昨日まで旅仕事だったから、疲れが抜けない。泥のような身体を布団からひっぺがして起きたら、まずうがいをして喉を湿らせ、そのまま軽く30分ほどストレッチ。

 喉や肺のまわりをやわらかくしときたい。そういえば、最近通い始めたジムのトレーナーさんに、体幹がとっても強い、軸がブレないって褒められました。運動はカラダに悪いと信じて、身体を動かすことは、ストレッチ以外やってきてなかったから、びっくりしました。きっと呼吸筋を鍛えているからだろうと思います。


筆者

玉川奈々福

玉川奈々福(たまがわ・ななふく) 浪曲師

横浜市生まれ。出版社の編集者だった94年、たまたま新聞で浪曲教室のお知らせを見て、三味線を習い始め、翌年、玉川福太郎に入門。01年に曲師から浪曲師に転じ、06年、玉川奈々福の名披露目をする。04年に師匠である福太郎の「徹底天保水滸伝」連続公演をプロデュースして大成功させて以来、数々の公演を企画し、浪曲の魅力を広めてきた。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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