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「文藝」編集部に訊く。「紙の雑誌」を出す意味

「リアルと仮想空間のどっちも巻き込んでいきたい」

丹野未雪 編集者、ライター

 「文芸再起動」を掲げ、およそ20年ぶりに全面リニューアルした季刊文芸誌「文藝」。「紙」からウェブへの移行が主流化するなか、なぜ現在のかたちを選んだのか。前稿に続き、編集部の3人・編集長の坂上陽子さん、竹花進さん、矢島緑さんに訊く。多数の芥川賞受賞作家を輩出している文藝新人賞の本質、隆盛する投稿サイトについても語っていただいた。

「場」をどう作るか、を意識して

――当サイト「論座」も、月刊論壇誌「論座」が2008年に休刊、2年後にウェブメディアとしてスタートしたという経緯があります。ジャンルにかかわらず、ウェブメディアへ移行する雑誌が増加し、一方では小説投稿サイトが隆盛しています。書き手も媒体もウェブ上にあるというなかで、いま、紙の雑誌を出すことはどういう意味を持つのでしょうか。

左から、竹花進さん、編集長・坂上陽子さん、矢島緑さん左から、竹花進さん、編集長の坂上陽子さん、矢島緑さん
坂上 まず紙の雑誌がもつ露出性というのはあると思うんです。読者の目の前に、様々な原稿が綴じられてひとつになった「モノ」の状態として提出できる。同時に、雑誌って「場」だと思うんですね。偶然の出会いが起きる場所。また単行本だとどうしてもその本単体で利潤を追求しなくてはならないという制約があるため、作品の質以外の要素、たとえば流行りだったりそのときの刊行タイミングの状況だったりに左右されやすいですが、雑誌の掲載作品は年齢や有名無名に関係なく、作品そのものがずらりと並ぶ中での売れ行きとはまた別の、質での勝負となります。ベテラン、若手もそこではみな同じです。だからこそ若い作家たちがトライアルできる場所でもある。以前、『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集』で今の作家たちによる古典新訳の企画が実現できたのは、今の作家と繋がりがきっちりある「文藝」という「場」が河出にずっとあったからだと、池澤夏樹さんはおっしゃっていましたが、その通りだと思います。

――文芸誌は、雑誌に掲載した作品を書籍化するためだけの装置ではない、と。

編集会議はPCを前に雑談するかのようにすすむ。チャットツールにSlackを導入し、気になることを日常的に共有。「たくさんボツになりますけど、提案にはスーパーウエルカムな編集長なので、アイデアが出しやすくて楽しい」と矢島さん編集会議はPCを前に雑談するかのようにすすむ。チャットツールにSlackを導入し、気になることを日常的に共有。「たくさんボツになりますけど、提案にはスーパーウエルカムな編集長なので、アイデアが出しやすくて楽しい」と矢島さん
坂上 そうですね。他の文芸誌はわかりませんが、「文藝」に関していえば、とにかく新しいことを発信し続けることが伝統ですし、その革新の伝統はこれからも守っていきたい。未来に向けて毎号賭けを行っている感じです。河出のベストセラーは「文藝」発のものも多いです。綿矢りささんの芥川賞受賞作で100万部を突破した『蹴りたい背中』、文藝賞受賞作でテレビドラマ化され社会現象にもなった白岩玄さんの『野ブタ。をプロデュース』、最近だと文藝賞と芥川賞をW受賞した若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』は60万部を超えています。皆さん、ほぼデビュー作に近い形でのベストセラーなんですよね。もちろんすべてがそう簡単にいくわけではなく、小説の編集はもっともアナログで時間がかかることなんですけど、とにかく未来の読者が待っている、新しいものが生み出せる「場」をどう作るか、それを意識してやっていきたいと思っています。また、リアルと仮想空間を対立させるんじゃなく、どっちも巻き込んでいきたいんですよね。ウェブメディアもおもしろいし、もっとウェブでの展開に手を出したいという欲望もあるんですが、準備中というところでして。

文芸賞贈呈式であいさつする若竹千佐子さん 2017年文藝賞贈呈式であいさつする若竹千佐子さん =2017年

――巻末にはQRコードがあり、表紙と目次、本文に登場するクイックオバケさんのGIF動画を楽しめるという仕掛けもあります。リアルと仮想空間のどちらも巻き込むという点に関して、デザイン面ではどのようにアートディレクターの佐藤亜沙美さんと共有していかれたんでしょうか。

坂上 「文藝」は80年以上の伝統がある文芸誌ですが、たとえば今「新しい文芸誌をいま創刊する」と仮定したときに、いったい何がおもしろいだろうか、という

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