メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

無料

図書館の本やブラックホールの撮影は役に立つの?

堀 由紀子 編集者・KADOKAWA

 本屋さんも大好きだけど、図書館も好きだ。特に私の地元、横浜市立中央図書館がたまらない。レンガ調で六角形を組み合わせたユニークで都会的な外観、エントランスの空間はとても高くまで吹き抜けになっていて、まるで神殿のよう。階段を登って中に一歩足を踏み入れると……そこから雰囲気が一転、なぜか薄暗い。天井には雨なのか何なのか、シミもある。装飾はなく、下に敷かれたじゅうたんや机、いすなどに築25年相応の味を感じさせる。ひとことでいうと、あまりきれいではない。

私の地元、横浜市立中央図書館拡大筆者がよく利用している横浜市立中央図書館=撮影・筆者

 だけど、私はここに来るといつもワクワクしてしまう。というのも、この図書館の蔵書が半端ではないからだ。調べ物をしていて気づいたのだが、探している本がないということはめったにない。

 私のいる編集部は、教養的な書籍を作ることがあり、資料調べに行くことがたびたびある。今では事前にパソコンやスマホで蔵書が調べられるので、そのあとから行くことが多いのだが、中央図書館ではない本の方が珍しいのだ。刊行が古い本や地方の小さな出版社が作った本、絶版になっている本、大学出版会が出した1万円以上する専門書などなど、検索すればだいたい出てくる。都内の図書館に蔵書がないときでも、中央図書館で検索するとたいていある。

 以前この話を同僚にしたら、

 「歴史の先生たちもよく使っているらしいよ。蔵書が多いんだって」

 と教えてくれた。専門家たちの間でも知られた図書館なのだとわかり、やっぱりそうなのか、と納得して、妙に誇らしい気分になった。

 書架に並んでいる本だけでもかなりの量だ。利用客に見えない書庫にはどのくらいの蔵書があるのだろう。毎日図書館に通って一日中、本を読んだとしても、一生の間にはとても読み切れないだろうな、と思う。人間はこれほどの知を積み重ねてきたのだと感じ入ってしまう。ああ、この殺風景だけどワクワクに満ちた空間に一日中座っていたい!

 置かれている本の中には、1年に一人とか二人とかしか読まないものもあるだろう。それでも、その1冊を求めてさまざまな人が集まってくる。小さな子どもとお父さん、お母さん、学生、大学院生、研究者風の人、定年後とおぼしき方――書き手と対話することで、思いがけない発見をしたり、新しい思考が導かれたり。

 しかもすべて無料だ。開館から閉館までいても追い出されることもない。自分が納めている税金がこんなふうに使われているのはうれしい。貴重な市民の財産だと思う。

高校生がお金を出して図書を購入

 が、新聞に、気になる記事が載っていた。「私費頼み続く県立高図書」と題されたものだ。

神奈川の県立高で図書購入に充てられる公費は全国でも異例の少なさだ。文部科学省の17年度地方教育費調査によると、県内の県立高(全日制)1校あたりの図書購入用公費は年14万8千円。横浜市など県内の市立高(同)150万8千円、都立高(同)109万5千円とは比べようもない。(朝日新聞3月12日付、神奈川県版より)

 その続きにはさらに驚かされた。各県立高校に渡される書籍購入の予算では足りないから、通っている高校生自身がお金を出しているというのだ。額は一人当たり数千円で、高額とはいえないが、だからといって、いいわけではない。

県立茅ケ崎高の図書館。背表紙のラベルは、私費で買ったことを示す青が大半で、県費で買った赤はごく一部拡大神奈川県立茅ケ崎高の図書館。背表紙のラベルは、私費で買ったことを示す青が大半で、県費で買った赤はごく一部

 私の高校時代も図書館の本の購入代を払っていたのだろうか。何十年も前のことだからよく覚えていないが、このような話はこれまで聞いたことがない。住んでいたのは別の県だが、たぶんなかったと思う。

 記事の中でコメントを寄せていた法政大の高橋恵美子兼任講師は「神奈川県は全国的にも珍しく、長い間、県立高の図書購入を私費に頼ってきた」と話している。小さいころから本を読むようにとことあるごとに言っている大人が、これからを生きる世代の書籍代に十分な予算をとっていないとはどういうことなのだろう。

 また、大阪市では、2020年3月開館予定の「こども本の森 中之島」が、税金ではなく寄付金で建てられるという。市民から集まった寄付は5億円を超えたそうだ。市民の思いが集まったのは尊いが、何か腑に落ちない。運営は税金でまかなってくれるのだろうか。寄付にだけ頼っていては、先々追い込まれてしまうのではないか。


筆者

堀 由紀子

堀 由紀子(ほり・ゆきこ) 編集者・KADOKAWA

1975年、山梨県生まれ。1999年より角川書店で、主婦向けのテレビ誌「しってる?」、スポーツ誌「SPORT Yeah!」、都市情報誌「横浜ウォーカー」の編集に携わる。2012年より書籍編集に。担当した書籍は、柳田国男復刊シリーズ(角川ソフィア文庫)、黒田勝弘『隣国への足跡』、望月衣塑子『武器輸出と日本企業』、室井尚『文系学部解体』、柴田一成『とんでもなくおもしろい宇宙』など。ハードボイルド小説と自然科学系の本が好き。