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「使えない文化財」は後世に残さなくていいのか

ネットオークションによる散逸に加え、観光振興に役立つ文化財が優先される時代に

西村慎太郎 国文学研究資料館准教授、NPO法人歴史資料継承機構代表理事

三重県では県史編纂の古文書の17%が散逸

 既述の「金曜山梨」という番組は、三重県生活局編『三重県資料現況確認調査報告書』(三重県、2007年)という本が刊行された直後であった。この本は三重県の「歴史資料の保存活用環境づくり事業」の一環によるもので、「三重県史編さん事業に伴う過去の資料調査や三重県史資料調査員により所在を把握した個人・団体・公共機関の史料群が、現在どのような状況になっているのかを確認」することを目的とした報告書である。その結果、1980年代の『三重県史』編纂事業で確認されていた古文書群の17.2%が散逸・廃棄・行方不明になっていることが明らかとなった。

 あの番組や『三重県資料現況確認調査報告書』発表から十数年を経て、状況はますます深刻になっている。まず、2000年代後半からのスマートフォンの爆発的普及が挙げられる。平成30年版の総務省情報通信白書によれば、インターネットへ接続端末は、50歳代までスマートフォンがパソコンを上回っている。そもそも2010年にはスマートフォンの世帯保有率が9.7%にとどまっていたが、2017年には75.1%に及んでおり、固定電話やパソコン、タブレットを上回った。このスマートフォンの普及とともに、オークションサイトだけではなく、フリマサイトやフリマアプリが叢生し、手軽に売買ができるようになった。機会があったらのぞいてもらいたい。いかに多くの古文書がフリマサイト・フリマアプリに出品されているのかを。

明治時代にも警鐘が鳴らされていた

 そもそも、民間にのこされた古文書の散逸に警鐘が鳴らされたのは、最近のことではない。明治政府は国土掌握のため、官撰地誌「皇国地誌」の編纂事業を計画するが、明治8年6月5日の太政官達第97号「皇国地誌編輯例則並ニ着手方法」という法令の中で、「古い記録など民間に存在する場合、往々にして散逸してしまい、ついに古いことを顧みる助けが失われてしまう。特に注意して探し求めなさい」と述べている。

 戦後の混乱は古文書の散逸・廃棄が一層進んだ。そのため、文部省科学教育局人文科学研究課において、近世庶民史料調査委員会が設置され、民間所在資料の調査が行われ、散逸する恐れがある場合はそれらを収集する機関として、文部省史料館(国立史料館。現在は人間文化研究機構国文学研究資料館にその役割が継承されている)が設立されることとなった。各地においても古文書の散逸・廃棄に対する危機感は広がり、文書館の建設、自治体史編纂へとつながっていった。

 しかし、時代とともに古文書の散逸・廃棄は深刻度を増している。

 例えば、後述する東京都西多摩郡檜原村の場合、1971年から『檜原村史』編纂事業が行われ、多くの古文書が発見・保全されて、『檜原村史』に生かされることとなった(1981年刊行)。その序文において、小泉康作村長は「今や明治維新後百十余年を経過し、社会万般の変化は、まさに驚異的なものがある。歴史保存事業の急務を訴えることが切なのは、このような世相の断層期を反映している」と述べている。ここでは歴史資料全般について触れているが、1970年代の古文書・遺跡・民具・言葉・伝承などの「保存」の必要性を端的に述べた一文であろう。

 そして、三村昌司氏は戦後から1990年代までの歴史資料散逸・廃棄の要因を、①続発する自然災害、②地域社会の弱体化、③個人主義の先鋭化、と3点にまとめている(三村昌司「地域歴史資料学の構築にむけて」、神戸大学大学院人文学研究科地域連携センター編『「地域歴史遺産」の可能性』岩田書院、2013年)。

古文書1拡大古文書の保全が進む一方で、散逸も後を絶たない=西村慎太郎さん提供

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筆者

西村慎太郎

西村慎太郎(にしむら・しんたろう) 国文学研究資料館准教授、NPO法人歴史資料継承機構代表理事

1974年生まれ。博士(史学)。専門は歴史学・アーカイブズ学及び歴史資料の保全。主要著書として『宮中のシェフ、鶴をさばく』(吉川弘文館、2012年)、『生実藩』(現代書館、2017年)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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