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「梅田 蔦屋書店」にみる出版界蘇生のヒント

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

「梅田 蔦屋書店」の人文コンシェルジュの三砂慶明さん拡大「梅田 蔦屋書店」の人文コンシェルジュ・三砂慶明さん=撮影・筆者

「棚を介してお客さまと会話をしている」

 その三砂さんがこのところずっと取り組んでおられる販売企画がある。それは「読書の学校」というもので、東西の出版社17社が三砂さんからいただくテーマにしたがって隔月でそれぞれお薦めの3冊を選び、「梅田 蔦屋書店」のコーナーに置いてもらう、という企画である。推薦文は店頭のオリジナル帯となって本に巻かれ、またそれらをまとめたリーフレットは店頭に置かれて毎回300部ほどが持ち帰られるとのこと。

 ちなみに、これまでに掲げられたテーマは以下のようである。

 「第一講 100年後。」「第二講 日々是好日」「第三講 わたしたちはなぜつながらずにいられないのか」「第四講 現代の古典」「第五講 人生に効く本」。そして6月からは「第六講 読書の愉しみ」が予定されている。

「ユリイカ」6月臨時増刊号として出ている〈総特集=書店の未来――本を愛するすべての人に〉拡大「ユリイカ」6月臨時増刊号「総特集 書店の未来――本を愛するすべての人に」(青土社)
 この企画を考えたモチベーションについて、ちょうどいま「ユリイカ」6月臨時増刊号として出ている〈総特集=書店の未来――本を愛するすべての人に〉に、三砂さんご自身がお書きになっている。

 「どうしたら今を生きる人に、人生観を揺さぶるような本との出会いをつくれるのか」を考えていたところに、平凡社の清田康晃さんからある問いかけをもらったのだという。

 「(清田さんから)現代の哲学の棚は誰のための書棚なのか、という疑問をいただきました。人生でもっとも貴重な資源は時間であり、学生なら哲学を学ぶためにプラトンから読むことはできるかもしれないが、日々仕事や家事をしながら哲学史を学びなおすのは不可能に近いのではないか。人文書の書棚はもっと自由に、二一世紀を生きる私たちのためのサバイバル教養にふりきってもいいのではないか」

 ちょっと長い引用になったが、そのモチーフから作られた〈棚〉は正しく「エディターシップ」の発露ではないか。雑誌という形態の存続が難しくなってきているいま、書店の店頭こそが、その役割を兼ねているのではないか。しかもそこには、紙媒体の編集にはない〈空間〉と〈人の動き〉までが含まれている。そのことを問うと、三砂さんは「そんな大げさな……」と謙遜しながらも、それ以上の理論武装をもってさらりと答えてくれた。

 「そういう棚の作り方を阻むのは、取次の送品ジャンルに対応した縦割りのセクションなんです。幸い蔦屋書店は違うけれど、大抵の書店は、文庫なら文庫、新書、単行本と、本の形態によって仕入れがジャンル分けされていて、そういうお店だと難しいのかもしれません。ただ逆に、こういう棚の作りをすると、たとえば文庫棚や新書棚、NHKのテキストの棚など、仕入れジャンルに特化した棚が作りにくいのも事実です。店頭で取り扱いがなく、ジャンルに紐づいた問い合わせがあれば、迷わず近隣の書店を紹介します。そういう意味では大阪という立地は恵まれていて、品数を誇るジュンク堂もあれば、ベストセラー型の紀伊国屋書店もある。また個性的なお店でいえば心斎橋にスタンダードブックストアもありました。それぞれのお店が違う性格をもって共存しているんです」

 それこそ、各々の読者層をもつ雑誌が共存していることに対応してはいないだろうか、と思いつつも、それでもいちばん印象に残ったのは次のようなひと言だった。「われわれは棚を介してお客さまと会話をしているんです」……これは深い。

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筆者

大槻慎二

大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主

1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。