メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

「三谷かぶき」ができるまで(下の一)

群像劇の魅力あふれる

山口宏子 朝日新聞記者

荒れる海、漂う船

三谷かぶき拡大「神昌丸」で漂流する大黒屋光太夫(左端)たち=©松竹

 開演5分前。午後4時25分になると、黒・柿・萌黄(もえぎ)の三色の定式幕が引かれる。するとそこは荒れる海原。青地に白く砕ける波頭を描いた巨大な布が、舞台一面を覆っている。

 花道からスーツ姿でメガネをかけた尾上松也が登場する。口上役の「教授風の男」だ。彼は軽妙に客席とやりとりしながら、この時代の日本の帆船は外洋へ乗り出せないようマストが1本しか許されず、船は非常に不安定だったことを説明。そして天明2年(1782年)12月の大嵐で23隻の船が沈み、ただ1隻生き残った「神昌丸」が、17人の男たちを乗せて太平洋を漂流していることを語る。

 波間から、ぼろぼろになった船が現れる。乗っている男たちの頭はみな、髷(まげ)を切り落としたざんばら髪だ。髷は嵐が静まるよう龍神様に供えたのだが、そのかいなく、船はマストも舵(かじ)も失い、漂流が8カ月も続いている。長い髪を左右に垂らした船乗りたちの姿には、「遭難」の深刻さとは不釣り合いな「まぬけ」な感じも漂う。大きな悲劇の最中にあるのに、どこかユーモラスなこの雰囲気が、この劇の基調となっている。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

山口宏子

山口宏子(やまぐち・ひろこ) 朝日新聞記者

1983年朝日新聞社入社。東京、西部(福岡)、大阪の各本社で、演劇を中心に文化ニュース、批評などを担当。演劇担当の編集委員、文化・メディア担当の論説委員も。武蔵野美術大学非常勤講師。共著に『蜷川幸雄の仕事』(新潮社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

山口宏子の記事

もっと見る