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『ビビを見た!』に樹里咲穂が出演/上

圧倒的な爽快感と息苦しさを両立させた大海赫の伝説の絵本を舞台化

大原薫 演劇ライター


拡大樹里咲穂=岩田えり 撮影

 KAAT神奈川芸術劇場で『ビビを見た!』が上演される。原作は大海赫(おおうみあかし)。圧倒的な爽快感と息苦しさを美しく両立させた伝説の絵本を、上演台本・演出の松井周が舞台化する。

 盲目の少年・ホタルに突然7時間だけ目が見えるようにしてやろうという声が聞こえた。ホタルの目が見えるようになると同時に、彼のまわりの人々は光を失ってしまう。突如、町が正体不明の敵に襲われ、人々はパニックに陥る。ホタルは盲目となった母と乗り込んだ列車で、やぶれた羽と美しい触覚を持った緑色の少女・ビビと出会う。天津爛漫で無邪気なビビに振り回されるホタル。そして、ホタルたちの乗り込んだ列車を巨人が追ってくる……。

 ホタルの母親役を演じる樹里咲穂。宝塚歌劇団で男役スターとして活躍し、退団後は卓越した表現力で数々の舞台に出演する。ミュージカルの出演が多い樹里だが、今回は念願のストレートプレイ、そして気鋭の松井周演出舞台への出演ということで、気合も十分だ。

「面白怖い」この作品は、ボディーブローのようにきいてくる

拡大樹里咲穂=岩田えり 撮影

――台本をお読みになったときの印象は?

 最初に原作を読ませていただいて、胸にズシっと来るというか、お腹にグッと響いてくる感じがしました。心に直接訴えかけられて自然と涙が出てくるみたいな。原作は衝撃的で、小さいときに読んでトラウマになった方もいらっしゃるみたい。だから、「どう言葉にしたらいいかわからない」というのが正直な印象でした。この原作を松井さんがわかりやすく、でも、わかりやす過ぎずに原作のエッセンスを十分に残しながら演劇として脚本に起こしてくださったんです。その脚本を読んで、「目に見えないものほど大切にしないといけないんだな」という感想を持ちました。

――稽古が始まってからはいかがでしたか?

 人々が目が見えなくなって、街を敵が襲ってくるという状況を稽古しているんですが、自分として想像しやすいのは阪神大震災のときの経験です。自分が地震に遭ったとき、どうだったかなということを思い起こすと、意外と普通に生活をしようとするんですよね。「学校に行かないと」「仕事に行かなきゃ」と思ったり。自分は阪神大震災のときは宝塚在団中だったので、宝塚大劇場が被害を受けているのに「劇場に行かなきゃ」と思いましたね。こうして日常生活を続けようとするのは『ビビを見た!』の登場人物たちも同じなんです。「ご飯を作らなきゃ」とかね。人間って異常な事態のときでも、日常を続けようとするんだ……と改めて感じました。この作品では全員目が見えない中で恐ろしいことが起こるので、パニック状態を身体表現していると「怖っ」と思うんです。でも、松井さんの演出が面白いんですよ。昨日ふと思ったのは、「この作品って面白怖い」。笑えるのにぞっとする。すごく怖いのに笑える。この作品は目が見える人と目が見えない人がパラダイムシフトして現実がひっくり返る物語なので、演出もそうやって怖さと面白さが表裏一体で、目が離せない作りになっているなと思いましたね。その繰り返しがだんだん終盤にかけてボディーブローのようにきいてくるというか。そこでお客様がどのように感じられるか、とても興味があります。

拡大樹里咲穂=岩田えり 撮影

――今回は稽古開始前にワークショップがあったそうですね。

 はい。演出家や振付家、キャストたちで「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(※参加者は完全に光を遮断した空間の中へ、グループを組んで入り、暗闇のエキスパートである視覚障がい者のアテンドにより、中を探検し、様々なシーンを体験する施設)に行きました。目の見えない方の体験ができる施設で、目を開けても真っ暗。まったく見えない中でもボール遊びをしたり、粘土細工を作ったりできるんです。目が見えないから声と感覚だけのコミュニケーションなので助け合いが必要なんですね。「じゃあ、〇〇ちゃんのところに集まって」「〇〇、ここにいます」とか、声や手の感触を頼りにしながら。でも面白いのは、外に出て見えるようになると、急に照れくさくなって喋れなくなるんです(笑)。逆に暗い中だと、心がパカっと開いて恥ずかしくなくなるという感覚が面白いなと思いましたね。ダイアログ・イン・ザ・ダーク以外に、体を動かしたりシンプルな台詞のやりとりをするワークショップなどを経て、稽古に臨みました。

◆公演情報◆
KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース
『ビビを見た!』
2019年7月4日(木)~7月15日(月・祝)  KAAT 神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
公式ホームページ
[スタッフ]
原作:大海赫
上演台本・演出:松井周
[出演]
岡山天音 石橋静河 樹里咲穂 久ヶ沢徹 瑛蓮 師岡広明
大村わたる 熊野晋也 岩岡修輝 長尾純子 中島妙子 小林風花
〈樹里咲穂プロフィル〉
1990年に宝塚歌劇団入団。伸びやかな歌声と優れたダンスに加え、芝居では幅広い役をこなす実力派男役スターとして観客を魅了する。また豊かな表情と演技力を武器に女役もこなした。2005年に宝塚歌劇団退団。最近の主な出演作品は、『クイーン・エリザベス-輝ける王冠と秘められし愛-』、『キューティ・ブロンド』、『命売ります』、『ロジャース / ハート』、『アダムス・ファミリー』など。9月に『怪人と探偵』、2020年2月に『天保十二年のシェイクスピア』への出演が決まっている。
樹里咲穂公式twitter
樹里咲穂公式instagram

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

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