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『ビビを見た!』に樹里咲穂が出演/下

新感覚、新感触の舞台、「面白怖い」世界を体験して欲しい

大原薫 演劇ライター


『ビビを見た!』に樹里咲穂が出演/上

お客様が自分の価値観を見直すような作品になれば

拡大樹里咲穂=岩田えり 撮影

――樹里さんが演じるのは少年ホタルの母親です。

 この作品は、見えなかったホタルが目が見えるようになって、人を助けたりビビに出会ったりしながら成長していく物語でもあります。目が見えない子供を持つ母親というのはどうなんだろうなと考えたとき、自分がいなくなったときに彼がちゃんと不自由なく暮らしていけるように自立を促して、ある程度の距離感を保ちながらも愛情をたっぷり育てるというのが理想じゃないかなと思って。最初の登場はホタルと母の二人のシーンなんですが、ホタルに対して普通の子供のように接して、ホタルが目が見えないというハンデがある部分は母親が助けているんです。その後、皆の目が見えなくなり、街に恐ろしいことが起こる中で、気づいたらホタルが大きく成長していて、一方で母親は真っ暗な世界を体験する。触覚と聴覚しか頼りになるものがない中でホタルは暮らしてきたんだと、身を持って経験するんです。そして、息子の成長を見て「自分が今まで見てきたものは何だったんだろう」と思うんですね。今までとは価値観が大きく変わるというか。今は稽古しながら、母親のこの経験は何なんだろうかと模索しています。

――この作品が伝えるテーマは決して簡単にとらえられるものではない。演じるには模索が必要なように思います。

 みんなが想像力を駆使して作っている感じですね。たとえば、ホタルの「家が見えるよ」という台詞一つとっても、見るという状況はホタルにとっては初めてのことだから「家があるよ」と言うんじゃないかとか。あるいは、ものが落ちるという現象も見たことがないから、ホタルにはものすごく新鮮かもしれない。そういうことをみんなで想像しながら、台詞に反映させています。例えば、四角いものがあったとして、私が考える四角と他の人が考える形は違うかもしれないなと思ったり。そういう気づきがあるのがこの作品の面白いところですね。お客様も自分の価値観を見直すようなことがあればいいなと思うんです。作品の中でも、ワカオという怪物がビビを自分のものにしようとするけれど、ビビは「私は私のものなんだ」という。人って自分の価値観の中に人を押し付けようとすることがあるけれど、本当は価値観というのは人それぞれのものじゃないかとか、いろいろなことを考えます。

拡大樹里咲穂=岩田えり 撮影

――松井さんの演出はいかがですか。

 面白いですね。松井さんは小さいころ、アリの巣を観察するのが好きだったんですって。今回の稽古でもアリの観察じゃないけれど、突発的な状況で人間がどんな反応をするのかがご覧になりたいのかなと思うんです。「最初から作り込みすぎないでスタートしましょう」と最初に言われました。今、目が見えない状況で稽古をしていますが、そうすると突発的なことが起こって演技だけど演技以上のものが出てきたりする。まず、人間の生理を大事にして、演技だけど演技ではないようなギリギリのところを狙ってらっしゃるところに表現の自由さがある気がしますし、とても共感できますね。

――演じる側としてはどうでしょうか。

 「笑っていいの?」という絶妙なところを狙って演出されるのが面白いですね。ホタル役の天音くんと「人が目が見えなくなってパニックになる」という場面の稽古をしたとき、ふたりで笑っちゃって。「こんな演劇見たことある?」「いや、見たことないです」って(笑)。言葉で説明するのは難しいですが、お客様にもこの面白さを体感していただきたいですね。

◆公演情報◆
KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース
『ビビを見た!』
2019年7月4日(木)~7月15日(月・祝)  KAAT 神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
公式ホームページ
[スタッフ]
原作:大海赫
上演台本・演出:松井周
[出演]
岡山天音 石橋静河 樹里咲穂 久ヶ沢徹 瑛蓮 師岡広明
大村わたる 熊野晋也 岩岡修輝 長尾純子 中島妙子 小林風花
〈樹里咲穂プロフィル〉
1990年に宝塚歌劇団入団。伸びやかな歌声と優れたダンスに加え、芝居では幅広い役をこなす実力派男役スターとして観客を魅了する。また豊かな表情と演技力を武器に女役もこなした。2005年に宝塚歌劇団退団。最近の主な出演作品は、『クイーン・エリザベス-輝ける王冠と秘められし愛-』、『キューティ・ブロンド』、『命売ります』、『ロジャース / ハート』、『アダムス・ファミリー』など。9月に『怪人と探偵』、2020年2月に『天保十二年のシェイクスピア』への出演が決まっている。
樹里咲穂公式twitter
樹里咲穂公式instagram

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

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