2019年06月26日
「令和」という新時代を迎えた今、各劇場はますます「エンタメの本拠地」として、おもしろ企画を連発している。
その筆頭に挙げたいのが、今年20周年を迎えた「博多座」だ。
この劇場の特長は、座長公演、歌舞伎、ミュージカル、宝塚まで「なんでもアリ」のバラエティ豊かな演目と「地元愛」である。
第一部の芝居は「水戸黄門」。一昨年(2017年)、BS-TBSで武田が6年ぶりに黄門役を演じたときから、私は「絶対、博多座にくる」と思っていたが、第2シリーズの放送開始に合わせた絶妙なタイミングでの上演となった。
水戸光圀(武田鉄矢)一行の世直し旅は福岡藩へ。芸人一座の余一(コロッケ)ら3人が老公一行になりすまし、騒動が起こる。「水戸黄門」といえば、「この紋所が目に入らぬか」の印籠シーンが「待ってました」の名場面だが、ここでは、偽物黄門コロッケによる「人という字は……」という武田のモノマネも「待ってました」で大喝采。
続いて第二部の「武田鉄矢×コロッケ×海援隊のスペシャル オン・ステージ」でもコロッケが観客に語りかけながら、「ロボット五木ひろし」など得意のモノマネで走り回れば、武田は博多弁MCで観客を沸かせる。観客は拍手、爆笑で忙しい。私の後ろの席の人は、「笑い過ぎて涙が出た~」とハンカチで汗をふいていた。観客と演者の呼吸がぴたりとあう。こういう一体感は、商業演劇最大の楽しみだ。
博多座は地元ならではのオリジナル作品作りに力を入れる。7年前、武田鉄矢と浅野温子という懐かしい顔合わせで、1991年に大ヒットしたドラマ「101回目のプロポーズ 時代劇版」という驚くべき演目を上演した際にも、他地域の人たちから「若いキャストに代えてではなく、武田、浅野で!?」とか「どうやって時代劇に。武田が道路に飛び出して『僕は死にましぇーん!』と叫ぶドラマの名シーンはどうするんだ」などといろいろ言われながらも、堂々と舞台作品にしてのけた。私もすぐさま博多座に出向いたが、ドラマの主題歌「SAY YES」が鳴り響く(時代劇なのに)中、「これが博多座の一体感」と驚嘆したものである。
博多座のサービス精神が現れているのは、演目だけではない。
館内には広いお土産売り場があり、定番の饅頭や弁当、健康茶、地元で人気のパンなどを売っているのだが、「いかがですか」という呼び込みがすごい。私も「マツコの知らない世界」で紹介されたというきんつばを買ってしまった。庶民的で人懐こい雰囲気の劇場なのだ。
東京では、この春、創業145年を迎えた明治座の新しい「緞帳」が話題を集めた。
なんとこの緞帳は、絵柄が動くのである! 仕掛けは、世界中でアート活動をしているチームラボのデジタル技術。お花見、お祭り、紅葉、雪景色、店が立ち並ぶ通りを、笠をかぶった商人やハットを被った紳士などが歩き回る。大きな緞帳をスクリーンのように活用して、明治座の前身である「喜昇座」が誕生した文明開化のころの日本橋の四季が、不思議な光のゆらめきとともに再現された。学術的にして芸術的。幕が開く前から、「なんかすごく贅沢なもの見たわ~」と感動する。
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