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【ヅカナビ】月組『ON THE TOWN』

3つの方向からもっと楽しむ!

中本千晶 演劇ジャーナリスト


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 月組『ON THE TOWN』が7月27日から大阪・梅田芸術劇場メインホールにて開幕する(8月12日まで)。1944年初演のブロードウェイ・ミュージカルだ。作曲がレナード・バーンスタイン、振付がジェローム・ロビンス。『ウエスト・サイド・ストーリー』のコンビが若き日に生み出した作品ということでも知られている。

 じつは1月の東京公演で見たときには、楽曲とダンスシーンに圧倒されただけで終わってしまった。なんとなく消化不良のままの『ON THE TOWN』。せっかくなので大阪公演ではその魅力をもっと味わいたい!というわけで、今回は月組『ON THE TOWN』を3つの方向から深掘りしてみることにした。

 だが、いろいろ調べたり映画版を見たりして作品のルーツに触れているうち、これはなかなか興味深い作品だぞということがわかってきたのである。いやこれ、ミュージカル好きなら是非とも見ておきたい作品ではないだろうか。

20代の若き才能が炸裂して生まれた作品

 基本ストーリーはごくシンプルだ。海軍水兵のゲイビー(珠城りょう)、チップ(暁千星)、オジー(鳳月杏)のニューヨークでの24時間を描いた物語である。1日の上陸許可を得て久しぶりに船から降り立った3人は、限られた時間内で大都会ニューヨークを満喫しようと意気込んでいる。さっそくチップはタクシードライバーのヒルディに、オジーは人類学者のクレアに一目惚れされる。そしてゲイビーは何と地下鉄ポスターの中の「ミス・サブウェイ」ことアイヴィ(美園さくら)に一目惚れ。さてゲイビーは実物のアイヴィに巡り会えるのか??

 正直、東京で見たときはストーリーが他愛なさすぎるのではないかという印象を受けた。だが、いろいろ調べていくうちにこの作品はむしろ誕生時のドラマが面白いのではないかと思うようになった。

 ブロードウェイ初演時、作曲のレナード・バーンスタイン、振付のジェローム・ロビンスは、ともに26歳。元々この作品は二人が作った『ファンシー・フリー』というバレエ作品にストーリーを加えてミュージカル化したものだ。モダンバレエの魅力を活かした作品として『ON THE TOWN』がミュージカル史に名を残す所以である。

 『ファンシー・フリー』は当時まだアメリカン・バレエ・シアターのダンサーだったジェローム・ロビンスが振り付けた、ロビンス最初のバレエ作品だそうである。ニューヨークの街に繰り出した水兵3人と女性たちとのすったもんだがバレエで表現される。元が舞踊作品なのだからストーリーがシンプルなのは当然といえば当然かもしれない。YouTubeで動画を見ることができる。

 つまり『ウエスト・サイド・ストーリー』のルーツはこの『ON THE TOWN』、さらにはバレエ『ファンシー・フリー』にまで遡ることができるといえるだろう。

 また、プロデューサーもオリバー・スミスとポール・フェーゲイという当時まだ20代の若いコンビであった。つまり「ON THE TOWN」はブロードウェイ・ミュージカルの発展期に若き才能が炸裂して誕生した作品だったのだ。実際「その溌剌たる若さに満ちた新しい感覚は、従来のベテランたちの作品には見られぬもので、非常な好評を得た」のだそうである(『ミュージカル入門』1963年より)。

 今回は版権の都合上、潤色は許されなかったとのこと。東京で見たときは正直、タカラヅカ流のアレンジが加えられていないことに忸怩たる思いがあった。だが、こうして作品のルーツを知った今は、逆に初演時そのままのものを見ることができることに興味津々だ。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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