蜜月を演じたほうがおトクな時代になった
2019年07月03日
最近、安倍首相が芸能人との会食を重ね、その様子をSNSにアップしています。
2019年5月10日には、TOKIOのメンバー4人を自身の行きつけのピザ店に招き、首相官邸や首相個人のSNSに投稿しました。また、5月22日には俳優の大泉洋氏と高畑充希氏を首相公邸に招いて会食し、やはりSNSに投稿しています。
また、会食ではないものの、統一地方選挙の前の2019年4月20日には、吉本新喜劇の「なんばグランド花月」を訪れて、サプライズで舞台に現れるという演出を行いました。さらに、G20直前の6月27日には、関ジャニ∞村上信五氏の単独インタビューに応じ、その様子をSNSに投稿しています。
これらの行動に対して、政権を支持していないと思われる人々を中心に、「芸能人の政治利用だ」との声や、一連の会食が予算委員会の開催を拒否しつづけている中での出来事だったことから「芸能人と会うよりもちゃんと仕事をして欲しい」との批判が多く挙がっていました。
また、「芸能人を取り込んで選挙や憲法改正の世論形成に利用しようとしているのではないか」という推察もネット上で散見されます。果たしてそれが事実かは分かりませんが、批判を展開する前に、なぜ首相や芸能人がこのような行動を積極的にとっているのか、その背景をもう少し丁寧に探ってみたいと思います。
まず、言わずもがなですが、日本人は、世界でも有数の「芸能ニュース大好き国民」です。以前「『Yahoo!』から見る「日本の異常さ」」という記事がネットで拡散されていましたが、人々の関心事に占める芸能ニュースの割合は他国に比べて異様に高く、その半面、ポリティカルアパシーの傾向が非常に強いと言われています。
昨今、週刊誌やワイドショーが、政治や経済の大きなニュースよりも芸能人による不倫等を大々的に報道するのは、もちろん視聴率が稼げるという理由からにほかなりません。また、ニュースを扱う番組でも、積極的に芸能人MCや芸能人コメンテーターを登用したバラエティー化が進んでいます。これも芸能色を出さなければ視聴率を稼げないという背景があるのでしょう。ですから政治家が芸能人の人気や知名度にあやかろうとするのは不思議ではありません。
実際、芸能人活用を狙っているのは、決して政府・与党だけではありません。たとえば、野党の立憲民主党も、7月の参議院選挙にミュージシャンの奥村政佳氏、元格闘家の須藤元気氏、元アイドルの市井紗耶香氏、芸人のおしどりマコ氏等の著名人を比例代表で擁立しており、著名人の取り込みに積極的である様子が伺えます。
もちろん、諸外国でも政治家と芸能人やアーチストが結びつくことは決して珍しくありません。前回のアメリカ大統領選挙では、ビヨンセ氏、ケイティ・ペリー氏、レディー・ガガ氏、ジョン・ボン・ジョヴィ氏等が積極的に民主党のヒラリー・クリントン候補の応援演説などを行ったことは記憶に新しいと思います。それに比べると日本の芸能界はむしろ政治と距離を置き過ぎている人が大半です。
ですが、立憲民主党の著名人候補や著名人を応援に招いたヒラリー・クリントンと、安倍首相との会食のケースでは、同じ著名人活用でも大きな違いがあります。それは、芸能人が、日常発言している自身の政治的信念と一致した行動か否かという点です。
2017年12月に松本人志氏が番組共演者と一緒に安倍首相と会食をしたことが発覚し、批判を浴びました。ですが、松本氏は安倍首相の政策に賛同する発言も多く、政治的信念が近いと考えられるため、会食したのは自然なことのように感じました。
一方、今回会食をした彼らがどのような政治的信念を持っているかは分かりませんが、少なくとも松本氏とは異なり、普段から自民党や安倍政権の政策に対する共感を公の場で繰り返し示しているわけではありません。実際、会食後も、政策に関するメッセージは皆無で、ただ仲が良い様子だけをPRしていました。
つまり、安倍首相の行動は、「芸能人の政治化」という旧来の手法とはやや異なり、
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