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【ヅカナビ】『花より男子』

2次元の世界から飛び出すF4、そして「つくしパワー」が涙を誘う

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 

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 またひとつ、タカラヅカにおける2.5次元ミュージカルの代表作が生まれた。話題の『花より男子』をようやく見ることができた今、はっきりとそう感じている。

 漫画やアニメ、ゲームを舞台化する、いわゆる「2.5次元ミュージカル」をタカラヅカでやる際には独自の難しさが必ずつきまとう。それは「原作ファン」「タカラヅカのファン」、そして「初めてタカラヅカを見る人」、三者の異なる要望を全て満足させなければならないからだ。

 原作ファンを満足させる舞台には原作を知らない人がついていけなくなりがちだし、タカラヅカファンを満足させるための改変を加えれば原作ファンから不満が出る。三者をそれなりに配慮した作りにすると中途半端なものになってしまう。「あちら立てればこちら立たず」の状態になる例がこれまで多々あったように思う。

 だが、今回の「花男」は三者の要望をすべて満たすことができたのではないか。ここにきてタカラヅカ流「2.5次元ミュージカル」がひとつの到達点に達しつつあることも感じたのだった。

柚香光が道明寺司そのものだった!

 かくいう私は「花男」が面白いというウワサだけは聞いていたものの、どんな話かをよく知らなかった。そこで、漫画全37巻を大人買い、予習して観劇に臨むことにした。正直、読み始めたときは「大金持ちのイケメン4人組『F4』が学校を支配し、F4に赤紙を貼られた人が、学校中の全生徒のイジメに遭う」という設定がどうも好きになれなかった。だが、2巻あたりからは早くも物語に引き込まれてしまった。それはひとえに道明寺司のキャラクターに負うところが大きい。

 一見とてもイヤな奴なのに、何故かくも心惹かれてしまうのか? 改めて考えてみるに、次のようなアンバランスさの融合こそが道明寺司の独特な魅力なのではないかと思った(並外れたイケメンであることはF4にも共通することなのでここでは除外する)。

1.「お前とは雲泥(うんどろ)の差だな」「竹馬(たけうま)の友っていいよな」などと言ってしまう、チャーミングなおバカさ。
2.いきなり自家用ジェットで好きなところに行ってしまうといった常識を超えたセレブさ。やることなすことスケールが違う。
3.でも、本当の本当は真っ直ぐで純情で、心優しい男であること。

 そんな道明寺、まさに柚香光にはハマり役ではないか。2巻あたりからそのことに気付いてからは、私の脳内劇場で柚香光の道明寺が動き出し、まだ生の舞台を見てもいないくせに“これは面白いこと間違いなし”確信してしまった。実際の舞台も期待はもちろん裏切られなかった、むしろ期待以上だった。いってみれば柚香光の道明寺で「花男」を上演する、そう決めた時点で成功の50パーセントは決まっていたのではないだろうか。 ・・・ログインして読む
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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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