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『新聞記者』拡大映画『新聞記者』=公式サイトより

 新聞では毎週金曜日の夕刊に、その週末に封切る映画の記事をずらりと載せる。監督や俳優へのインタビューもあるが、中心となるのは記者や外部筆者による映画評だ。新聞によって大きな違いのある政治面や社会面と違って、映画評で取り上げる映画はだいたいどこの新聞も似通っている。

 ところが6月28日(金)付の夕刊では異変が起きた。各紙は『凪待ち』(白石和彌監督)と『COLD WAR あの歌、2つの心』(パヴェウ・パブリコフスキ監督)をおおむね大きく取り上げたが、『新聞記者』(藤井道人監督)は新聞によって扱いにかなり違いが出た。この違いを探ってみると、新聞各紙の政治的立場を見事に反映していたことがわかった。

 この映画は文字通り「新聞記者」が主人公の映画である。この題名を聞けば、映画担当であろうと新聞記者ならば必ず見なければと思うだろう。そのうえ、映画はこの2年ほど菅官房長官を追い詰める質問で話題の東京新聞・望月衣塑子記者が書いた『新聞記者』をもとにしたフィクション。総理主導の医療系大学院大学新設にまつわるスキャンダルを追う記者の吉岡(シム・ウンギョン)と内閣情報調査室(内調)に勤務する官僚の杉原(松坂桃李)を中心に描く。

 不正入試を総理の指示と漏らした元局長の不倫リークや官邸べったりのジャーナリストのレイプ疑惑もみ消しなど、まさにこの数年安倍政権で起こっていることと似たような出来事が次々と現れる。アメリカ映画では『バイス』や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』のように最近の政治を描く作品は多いが、日本では極めて珍しい。


筆者

古賀太

古賀太(こが・ふとし) 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1961年生まれ。国際交流基金勤務後、朝日新聞社の文化事業部企画委員や文化部記者を経て、2009年より日本大学芸術学部映画学科教授。専門は映画史と映画ビジネス。著書に『美術展の不都合な真実』(新潮新書)、『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』(集英社新書)、訳書に『魔術師メリエス──映画の世紀を開いたわが祖父の生涯』(マドレーヌ・マルテット=メリエス著、フィルムアート社)など。個人ブログ「そして、人生も映画も続く」をほぼ毎日更新中。http://images2.cocolog-nifty.com/

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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