イデオロギーを凌駕する「権威ファースト」の出現
2019年07月17日
若者の安倍政権支持率はあらゆる世代の中で最も高い――。
もはや常識と化したこの傾向に対して、「なぜ、若者は政権を支持するのか」という視点の分析記事がたくさん出ています。
私は、そのような記事を見つけ次第、なるべく目を通してきました。確かにどの記事も一部の若者の声を代弁していますが、その一方で、何かまだ一つ、決定的なピースが欠けているように感じるのです。
たとえば、インターネット上でもトレンド入りするほど話題になった朝日新聞の記事「「安倍政権支持」の空気――この貧困、自己責任だもの 格差認め自民支える若者たち」では、生活が苦しいと感じる若者が自己責任論に染まっているせいで、経済格差を肯定・容認し、自分が受ける不利益を「社会のせい」「政治のせい」とは捉えられなくなっていると指摘しました。
よく分析できている素晴らしい内容で、非正規雇用を拡大した自民党を、苦しい思いをしてもなお支持する姿は、「まるでDV加害者の夫をフォローする被害者の妻や、虐待親をフォローする虐待被害児童のような心理状態なのかもしれない」とさえ思ったのですが、これは貧困層における傾向であり、生活にある程度満足している中間層の話ではありません。
中間層を焦点に当てた記事では、「若者の生活満足度が高まっており、政権を変える意味を見いだせないからだ」という指摘も少なくありません(※参考記事)。
確かに一理あると思います。ですが、「満足度・生活の質に関する調査」(内閣府)を見ると、若者よりも政権支持率の低い高齢者のほうが満足度は高くなっています。さらに、同年代でも政権支持率の低い女性のほうが満足度は高くなっており、若い男性の政権支持率が他の層に比べて高い理由にはならないでしょう。
「若者はイデオロギーフリーになっているため、イデオロギーよりも成果で政権を選ぶ。安倍政権になって以降、若者にとって最重要課題である雇用問題で、数値が改善傾向にあるから政権支持は当然だ」という説もよく耳にします(※参考記事)。雇用の悪化が進むと若者の支持率が下がるのは世界各国で見られる現象で、確かにその影響はかなり大きいと思うのですが、一つ大きな疑問が残ります。
2012年12月発足の第二次安倍政権下で就職活動をした大卒(浪人・留年なしと仮定)は、2014年3月卒業の1991年生まれ以降の世代で、2019年現在で28歳以下のはずです。29歳以上は民主党政権時に就職活動をしています。
恩恵を受けた28歳以下の若者が安倍政権支持に雪崩を打つのは、確かに若者の雇用増で説明がつくかもしれません。ですが、転職組を除いて、雇用が差し迫った課題ではなくなったはずの29歳~39歳の世代までもが、自分よりも若い世代の雇用増加を理由に安倍政権の支持に傾くのはどういうことでしょうか。どうも雇用増だけではないと思うのです。
「政権に関する負のニュースを取り上げるテレビや新聞を見ないため、若い人々には政権のネガティブ情報が入って来ないから」という分析もあります。確かに影響はおおいにあると思いますが、もしその説が正しければ、世界各国でネット中心の生活を送る若い男性ほど政権支持率が高い傾向が見て取れても良いはずです。
ところが、どうもそうではありません。デモが続く香港では、むしろ若い男性の行政長官支持率が最も低いようです。ですので、テレビや新聞を見ないことよりも、ネットで政権に関する負のニュースが広まらない日本の特徴のほうに問題の原因があるように感じます(※なぜ広まらないかは論点が異なるので今回は触れません)。
「若者の価値観が保守化・右傾化している」という話もよく聞きます。確かに、ネットを介して「ネトウヨ化」が進み、極右候補が一定の票を得るようになったのは事実です。「チャレンジをしない」「安全運転でよい」「現状変更を望まない」「留学に行かない」という意味で、保守的な若者が増えているのも間違いありません。
ですが、その一方で、外国人労働者の積極的受け入れ、選択的夫婦別姓、同性婚、働き方改革等に賛成する人の割合は若者のほうが多く、価値観のリベラル化が進んでいる側面や、変化を望む面も見られます。つまり、保守化が進むと同時に、リベラル化が進む面もあるわけです。
さらに、保守化とリベラル化の二極化もあるでしょうし、同一人物内において保守化とリベラル化が同時に進んでいるケースも考えられます。若者全体をひとまとめにして「右傾化・左傾化」という単純な尺度で見分けること自体がもはや不可能なのでしょう。
若者に特徴的で、とりわけ男性に多く、世界各国でも同様の傾向が見られる現象と言えば、やはり権威主義化ではないでしょうか。「論座」でも、吉田徹氏が「若者と民主主義との「ディスコネクト」」という記事で、若者の権威主義化の問題を指摘しています。儒教的な上下関係の概念が根強く残り、人権、個人の尊厳等に対して理解の乏しい日本でその特徴がより強く出るのも頷けます。
この土壌に政権の長期化が加わります。前回の記事「安倍政権のネット戦略は国民の弱みを突いてうまい」では、日本でも権威主義パーソナリティが拡大する傾向にあり、長期政権によって政治的権威を高めた安倍政権に好感を持ちやすくなっている社会背景について触れました。国民の側にも政権の側にも、権威的結び付きが太くなった原因があると思います。
そしてこの権威主義化は、自分の政治的価値観というレイヤーよりも上位に位置しているのではないでしょうか? というのも、リベラルな価値観を有する人が、権威ある人の自分と異なる意見を平然と受け入れるケースが少なくないと感じているからです。安倍首相の政治的価値観とは相反するのに、批判的態度を一切とらず、中には「安倍首相はすごい」と言ってしまう人がいるのも、まさにこれでしょう。
つまり、「自分の政治的価値観ファースト」ではなく、「権威ファースト」です。これが、リベラルな価値観の強いはずの人までもが安倍政権を支持するという「ネジレ現象」が生まれるクリティカルな要因のように思うのです。
その一方で、野党が若者に支持されない理由も、何かクリティカルなものがあるはずです。なぜリベラルと位置付けられる野党は、リベラルな若者から支持を獲得できないのでしょうか?
その一つとして、
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