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若者にとって「格差拡大策」に映る野党の政策

「維新が最もリベラル」はある意味正しい

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

候補者の政策を分析する学生たち=2019年7月11日午後5時18分、岐阜市柳戸候補者の政策を分析する学生たち。彼らから見た野党の政策は?=2019年7月11日、岐阜市柳戸

 野党(維新を除く)は、社会保障をより一層充実させることで、経済格差を是正する政策を公約に掲げています。それゆえ、“リベラル”に該当すると思いますが、経済格差は必ずしも現時点の貧困層と富裕層の格差にとどまりません。

 前回の記事「リベラルな若者が政権を支持するネジレの謎を追う」でも紹介したように、賦課方式を採用する年金財政や企業の年功序列によって数千万~1億円とも言われる莫大な世代間格差が生じており、その意味において若者は一律に“弱者”です。

 ところが野党の公約を眺めていると、「世代間でもフェアネスを実現しよう!」とする政策を打ち出すどころか、むしろ政治的介入によって格差をさらに拡大させるような提案が少なくないように感じます。

野党が世代間格差を広めようとしている!

 たとえば、2019年6月ごろ、老後の2000万円問題を発端に、マクロ経済スライド(年金の被保険者の減少等の社会情勢に合わせて、年金の給付額を調整する仕組み)が国会で話題となりましたが、これを機に一部の野党は参議院選挙でマクロ経済スライドの停止や廃止を主張しています。

 ですが、「支える人が減れば支給できる金額も当然減る」というマクロ経済スライドが発動されなければ、相対的に高齢者への給付が手厚くなり、若者の社会保険料支出額は増加し、世代間格差は広がります。世代間という観点で見ると、人口減少時代におけるマクロ経済スライドの停止や廃止は、格差を拡大する政策です。

 マクロ経済スライドの廃止だけではありません。野党の公約を見ていると、社会保障政策で、「医療、介護の自己負担や保険料の増大をストップ」「年金支給年齢の引き上げに反対」と掲げる政党があります。これも若者にとっては相対的に負担が増える政策です。

ネジレているのはむしろ野党の政策では?

 また、消費税は、高齢者を含めて国民全体で広く負担し、現役世代に負担が集中するのを防ぐという特徴があります。逆進性の問題は残るものの、世代間という切り口で見れば、高齢化社会における社会保障の財源としてはフェアな側面もある税制です。実際、各種世論調査で、消費増税に賛成する割合は、若者のほうに概ね高い数値が出ているようです。

 ところが、日本では野党が、消費増税に強く反対しています。別に消費増税という形でなくともよいのですが、何かしらの手段によって高齢者にも財政を支える負担をお願いしなければならないはずなのに、彼らも一緒に負担をする税金を拡大しなければ、ますます若者にツケが回るだけです。

 なお、一部の野党は消費増税の代わりに法人税強化を打ち出していますが、北欧諸国は日本よりも低い法人税と日本よりも高い消費税の組み合わせで高福祉国家を実現しています。福祉国家を目指しながら消費増税には反対し、法人税を強化するのは、そのような世界の「リベラル」の潮流に逆行しているような気もするのです。

 それに加えて、法人税は、(1)企業誘致を目指して税率を下げることが過当競争に陥る「Race to the bottom(底辺への競争)」の問題や、(2)グローバルビジネスによって法人格や工場よりも国境を跨(また)ぐ知財やデータが利益の源泉になる側面が強くなっている問題、(3)大きな先行投資によって赤字が続く新興企業が続出している問題等を考慮すると、今後税金の柱としては十分に機能を果たせなくなる可能性が高いのではないでしょうか。

裁量労働制のような新しい働き方を魅力的と感じる若者も少なく裁量労働制の拡大に反対する声は強かったが、若者たちは……

「やめればよい」若者は働き方改革に前向き

 さらに、野党が安倍政権の働き方改革に反対しているのも、若者の印象を悪くしていると思います。若者は硬直的な日本の労働慣行にメスを入れて欲しいと強く思っていて、そのほうが、職場の世代間格差で割を食っている自分たちに大きなメリットがあるからです。

 たとえば、裁量労働制が無限に広がれば、企業に都合のよい「ブラック労働」が増える可能性も確かにあり、絶対それは食い止めないといけません。ですが、若者の多くは法や政府の力に頼る以前に、「酷い企業だったらやめればよい」と思っています。

 もちろん、やめたくてもやめられなくて過労死自殺をしてしまった事例等を見れば、簡単に「やめればよい」で済まないケースもありますが、現実は既に多くの若者が、嫌だと思ったら心を壊す前にやめるという自己解決をしているのです。

 転職市場の未発達やシングルインカム等、やめたくてもやめにくいシチュエーションの多い上の世代と違い、転職に対するハードルが低い若者にとっては、裁量労働制の負の側面に対するアレルギーも低いのです。

野党は「総論反対」をやめたほうがよい

 逆に、人手不足に悩む店舗と1日単位のアルバイトを探す人をマッチングするアプリが急拡大する等、若い世代ほどフレキシブルな労働やそれを可能にするギグエコノミーに対するニーズは強いので、裁量労働制のような新しい働き方を魅力的と感じる若者も少なくありません。子育て世代でも、裁量労働制であれば、急な発熱で保育園を休まなければならない等の問題に対処することができます。

 ところが、近年国会では野党が「定額働かせ放題」とネーミングして、裁量労働制の適応拡大に反対してきました。仮に「問題を起こした企業には厳格に対処せよ」「問題を起こさないよう監督を強化せよ」と要求していたのなら、若者も「野党の言う通りだ」と納得したのかもしれません。

 ですが、「問題が起こるかもしれないから制度を変えること自体に反対」という姿勢では、

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