統制ではなく自発性。理想のオーケストラを求めて
独自の配置、演奏者の意識改革……自らオケをつくった男の70歳の挑戦
大原哲夫 エディター・作家
1枚の写真を見ていただきたい。これは西脇義訓がチャレンジしたオーケストラの配置である。驚いたことに全員が横1列に前を向く。いま、日本のオーケストラにある「革命」が起っている。

西脇のオーケストラ配置。演奏者は横1列に並ぶ。右が客席。(撮影は筆者。以下同)
一般的なオーケストラの配置は、指揮者を中心にして半円形に広がる。すべての演奏者は指揮者の方を向くことになり、指揮者とオーケストラは主と従、命令と服従の関係になる。近代オーケストラのこの半円形の配置は、20世紀に定着する。それはひとりの権力者、独裁者の支配下、まさに中央集権のやり方ではないだろうか。西脇はこれに疑問を突きつけた。
西脇は、いわゆる音楽大学を出て、指揮者のキャリアを積んだわけではない。レコード会社に勤めたのち、自らレコード会社を起こし、ディレクター、プロデューサーとして、数多くの録音に携わってきた。 そうした経歴を持つ彼が、オーケストラを自らつくり、指揮者としてデビューした。世界でも類例を見ないことである。
オーケストラの独自の配置を提示し、オケのメンバーの意識改革をし、演奏者個々の自発性を促し、まったく新しいオーケストラの響きを作り出している。彼の活動は、組織と個人の関係、集団の中での個人の自立、自由の獲得、閉塞しがちな組織の活性化という、現代社会のテーマとも通底する。
彼の音楽活動にスポットを当て、その意味するところを紹介したい。