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中日応援歌の「お前」とキムタクと『新聞記者』と

矢部万紀子 コラムニスト

与田監督が「お前」を嫌がったワケ

 と、そこにふってわいたのが、本日の主題、プロ野球中日の応援曲「サウスポー」騒動だ。「お前(おまえ)が打たなきゃ誰が打つ」に対し、今季就任した与田剛監督が「選手に失礼では」と指摘、応援団が演奏を自粛したという。反応の大きさからか、与田さんは自粛発表の翌日、「おまえより名前で呼んでほしい」と説明したそうだ。

 プロ野球ファンによると与田さんという人はとても真面目で、解説者時代には穏やかで丁寧な語り口が人気だったという。そういう人だからこそのサウスポー問題だったのではないか。勝手にそう解釈している。

 この問題を取り上げた7月7日の「ワイドナショー」(フジテレビ系)がすごく面白かった。まずゲストコメンテーターの石原良純さんが「決めた、決めた、お前と道連れに、とかあったじゃないですか」と言っていた。あ、石原さん、「みちづれ」ですね、70年代に流行った演歌ですよね。あの頃、演歌では「おまえ」が頻出していたけれど、それは愛する人を指す二人称でしたよね。

 同世代としてはわかったけど、若い人はどうだろう。と思っていたら、同じくゲストコメンテーターの指原莉乃さんが「おまえ=嫌」とはっきり表明していた。舞台で歌っている時の応援で「おまえ」はギリギリありだとしても、握手会で言われたら、気持ち悪い。「誰?」と聞き返す、と言って、後ろを見るそぶりをしていた。

指原莉乃さん拡大指原莉乃さんも「おまえ」と呼ばれることに拒否反応

 司会の東野幸治さんが「ワイドナ高校生」(という可愛い女子が毎回出演する)に「おまえが好き、とか告白されたらどう?」と聞くと、「『彩奈だよ』って言う」と答えていた。今どきの女性2人から、きっぱり拒否られる「おまえ」。

 ただし出演者全員、応援歌の「お前」は問題ないという立場だった。それが大抵の見方だと思う。が、与田さんという真面目な人は、指原&彩奈の視点を理解していたのではないかと思うのだ。少なくとも、「人をおまえって呼ぶって、あんまりよくないのでは」というアラームが与田さんの中で鳴った。だから応援歌だってダメでは? 生真面目な人ゆえに、そう口にしてしまったのではないかと想像している。

映画『新聞記者』で怖かった「おまえ」

 こんなふうに与田さんの味方をしているのは、今の「おまえ」って「男子の部室」用語ではないかしらと思うからだ。部室といえば、まずは運動部。プロ野球の世界にあって、そのようなアラームを持つ人は実に貴重だと思う。与田さんは「部室」に現れた良心かも。

 などと盛り上げたのは、最近、採集した「おまえ」の影響が多分にある。映画『新聞記者』の中の台詞だ。

 外務省から内閣情報調査室(内調)に出向している主人公・杉原(松坂桃李)は、

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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長をつとめた後、退社、フリーランスに。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)。最新刊に『雅子さまの笑顔――生きづらさを超えて』(幻冬舎新書)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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