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ブレグジットと薔薇戦争――歴史をつなぐ

小林章夫 帝京大学教授

英国のEU離脱をめぐる2度目の国民投票を求めてデモ行進する人たち拡大英国のEU離脱(ブレグジット)をめぐる対立は、新たな薔薇戦争?

 「歴史上、三月二十九日は幸福な日ではない。そして、今週もこのジンクスが破られることはなかった」

 『薔薇戦争――イングランド絶対王政を生んだ骨肉の内乱』(陶山昇平著、イースト・プレス)の「はじめに」の部分でこう書かれている。一瞬何のことかと思ったが、2017年3月29日に発表された、英紙『イヴニング・スタンダード』の論説の書き出しの部分だそうで、寄稿者である中世英国史研究者のダン・ジョーンズの言葉。この人物によれば、まず2017年3月29日はイギリスの首相テリーザ・メイが欧州理事会議長に書簡を送り、「ブレグジット」、EU離脱の意思を通知した日である。

 しかしそこから歴史を遡り、845年にはヴァイキングによるパリ劫掠(ごうりゃく)、1936年にはヒトラー政権によるラインラント進駐の確定(この年の3月29日に行われた国民投票の結果、98.8パーセントの圧倒的多数の賛成により、進駐が追認)。そして1461年、イングランドで繰り広げられ、イギリス史上最も血なまぐさい会戦「タウトンの戦い」をダン・ジョーンズは引き合いに出し、21世紀のEU離脱を巡る騒動も同じ3月29日のことであるにとどまらず、「皆が二陣営のどちらにつくかを迫られ、敗者は破滅の途をたどる」とまで言っているそうだ。

 この部分を読んだ私は、なるほど見事な書き出しと思い、早速本書を買って読んでみた。第1に、ブレグジットを巡るこのところのイギリス議会、とりわけ政権を担っている保守党の権力闘争に辟易していたからだ。もとはと言えば、前首相のデイヴィッド・キャメロンが国民投票で民意を尋ね、まさかのことに離脱派が勝利を収めてキャメロンが無責任にも政権を放り出したことに端を発する。キャメロンの後を引き継いだテリーザ・メイ首相も混乱した事態を収拾できるどころか、ますます深い泥沼に落ち込み、イギリスは一体どこに落としどころを求めるかまったくわからない状況にある。

 イギリスがヨーロッパ大陸と一線を画す姿勢を持っていたことは理解していたが、まさかこのような混乱を甘んじて受けるとは。もちろんEUとの交渉では、何とか自国の有利になるように努力していることはわかる(この点に関しては庄司克宏『ブレグジット・パラドクス――欧州統合のゆくえ』<岩波書店>参照)が、果たして思い通りになるのか、わからないのだ。

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筆者

小林章夫

小林章夫(こばやし・あきお) 帝京大学教授

専攻は英文学だが、活字中毒なので何でも読む。ポルノも強い、酒も強い、身体も強い。でも女性には弱い。ラグビー大好き、西武ライオンズ大好き、トンカツ大好き。でも梅干しはダメ、牛乳もダメ。著書に『コーヒー・ハウス』(講談社学術文庫)、『おどる民 だます国』(千倉書房)など、訳書に『ご遺体』(イーヴリン・ウォー、光文社古典新訳文庫)ほか多数。