2019年07月29日
近年、「観光列車」と称するジョイフルトレインがブームになっている。赤字に悩まされている鉄道事業者にとっては、“増収の切札”であり、“社運を賭けた大事業”といえるだろう。しかしながら、それ頼みでは心許ない。
脚光を浴びたのは、1983年に登場した東京南鉄道管理局の『サロンエクスプレス東京』、大阪鉄道管理局の『サロンカーなにわ』で、「欧風列車」と呼ばれるもの。当時は国内の鉄道においても画期的な豪華車両で、国鉄としては“起死回生、会心の一打”といえた。
以降、分割民営化初期まで、客車を中心にジョイフルトレインへの改造が相次ぎ、欧風列車、お座敷列車とも、団体列車を中心に運行された。
全国的にジョイフルトレイン隆盛のきっかけとなったのは、2013年3月24日、肥薩おれんじ鉄道が一般車両をジョイフルトレインに改造した『おれんじ食堂』の運行(新八代―川内間など)を開始したことだ。2011年3月12日に明知鉄道が急行〈大正ロマン〉の運行(恵那―明智間)を開始し、下り列車のみ一般車両にテーブルを配置する予約制の食堂車に設定したところ、反響を呼んだことに刺激を受けたのだろう。
『おれんじ食堂』は地元飲食店の協力もあり、不定期列車ながら反響を呼ぶ。以降、すべてではないが、“ジョイフルトレイン=食事ができる”という、ひとつの図式ができあがった。
また、『おれんじ食堂』のデザインを手がけた水戸岡鋭治氏(ドーンデザイン研究所)に依頼する鉄道事業者も増え、彼の名は一段と知名度を上げた。そして、ローカル線にもジョイフルトレインが波及したことで、増収や活性化につながった。
ジョイフルトレインは“オンリーワン”のため、車両自体に事故や故障が発生すると、運休は免れず、自動的に減収となってしまう。それを覚悟のうえで、ジョイフルトレインを導入するのだから、鉄道事業者のわらにもすがる思いが表れている。
ただ、「2015年度 全国第三セクター鉄道63社 経営動向調査」によると、国鉄・JRの路線を引き継いだ第三セクター鉄道事業者のほとんどが赤字。メディアに売り込んで話題性を振りまき、増収に寄与したとしても、黒字に至らないのが現状と言える。
ジョイフルトレインの隆盛で気になるのは、「後釜」だ。そのほとんどは、既存車の改造によって生まれている。新車だとオーダーメイドとなり、費用が高くついてしまうからだ。早い話が、予算オーバーを抑えるため、既存車に白羽の矢を立てているのだ。
改造車両は新製から10年程度、20年以上まで様々。メンテナンスも一般車両に比べ、経費が掛かるのではないかと思う。特にベテランの車両にもなると、機器の部品確保が難しくなる恐れもある。そして、車両が老朽化したら、車両、鉄道自体とも存続に向けて後釜を導入するか、ジョイフルトレイン自体の運行を打ち切るかの決断を迫られよう。
仮に後釜の導入を決めた場合、同じエクステリア、インテリアでは通用せず、“顧客”は減ると思う。保守的に陥らず、次世代車両にふさわしい強烈なインパクトを与え続けない限り、ジョイフルトレインは隆盛から衰退へ向かうのではないだろうか。
後釜という点で、もうひとつ挙げておきたいのは
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