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ブロードウェーの巨匠、ハロルド・プリンスを悼む

ミュージカルの地平広げた生涯

山口宏子 朝日新聞記者

一癖ある名作を次々と

 同じくプロデューサーを務めた「屋根の上のヴァイオリン弾き」(64年)は、19世紀末のロシアの寒村で生きるユダヤ人一家の物語。親と子の葛藤、伝統を守る者と打ち破ろうとする者との摩擦、漂泊するユダヤの民の悲しみなどが重層的に表現されている。

 その後はプロデューサー兼演出家としての仕事が増えた。

 「キャバレー」(66年)は、第2次大戦前のベルリンが舞台。アメリカ人作家の目を通して、夜の街の退廃と享楽、ナチスが台頭する不気味さ、その中で押し流されてゆく人々を、ジョン・カンダー作曲、フレッド・エブ作詞のナンバーにのせてつづった。

 70年代には、ひねりの利いた知的な作風で知られる音楽家、ソンドハイムと組んで、結婚をめぐる男女の関係をシニカルに見つめた「カンパニー」、ベルイマンの映画をもとにした「リトル・ナイト・ミュージック」、米国に開国を迫られて混乱する幕末の日本を描いた「太平洋序曲」、妻子を殺された床屋が残虐な復讐をたくらむ「スウィーニー・トッド」を次々と演出した。どれも「おとなの」ミュージカルだ。

 80年代には、英国の作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーの二つの代表作を演出している。一つは、貧しい少女からアルゼンチンの大統領夫人になったエバ・ペロンが主人公の「エビータ」。ゲバラを思わせる狂言回しが登場し、彼の皮肉な視線の中で、大衆から絶大な人気を得る一方で、権力や金銭への欲望も強烈だったエバが、短い生涯を駆け抜ける。

 そして、記録的な大ヒットとなった「オペラ座の怪人」。86年にロンドンで初演され、88年1月にブロードウェーで開幕。以来、世界中で上演され、累計観客数は1億4千万にのぼる。

 ブロードウェーでは世紀をまたいで現在も上演が続き、ロングランの最長記録を日々更新している。

ハロルド・プリンス追悼拡大劇団四季「オペラ座の怪人」の舞台。オペラ座での華やかな仮面舞踏会=2017年横浜公演、下坂敦俊氏撮影

 その後も、独裁政権下にある国の刑務所にとらわれた同性愛の男と政治犯を描く「蜘蛛女のキス」(92年)、人種差別の問題を盛り込んだ1927年初演「ショーボート」のリバイバル(94年)、20世紀初めのアメリカ南部で実際に起きたユダヤ人差別による冤罪事件が題材の「パレード」(98年)と、次々と話題作、問題作を発表してきた。

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筆者

山口宏子

山口宏子(やまぐち・ひろこ) 朝日新聞記者

1983年朝日新聞社入社。東京、西部(福岡)、大阪の各本社で、演劇を中心に文化ニュース、批評などを担当。演劇担当の編集委員、文化・メディア担当の論説委員も。武蔵野美術大学非常勤講師。共著に『蜷川幸雄の仕事』(新潮社)。

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