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【ヅカナビ】『チェ・ゲバラ』

骨の髄まで「革命家」だった男、その生涯をタカラヅカが骨太に描いてみせた

中本千晶 演劇ジャーナリスト


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 タカラヅカでチェ・ゲバラを主人公にした作品を上演――そう聞いたとき驚きを禁じ得なかったのは私だけではないだろう。タカラヅカは「夢の世界」だとよく言われる。だか、そこで描かれる夢は陳腐なものであって欲しくない。リアルを超えたところにあるもっとスケールの大きな夢を描いて欲しい。その意味で『チェ・ゲバラ』は極めて「タカラヅカらしい」作品といっていい。

 1幕はフィデル・カストロとの出会いからキューバ革命を成功に導くまでが描かれる。ゲリラ戦士たちのカーキ色の軍服でさえカッコ良く着こなしてしまうのもタカラヅカの男役芸だ。代わって2幕では米ソ冷戦下で揺れるカストロ政権のもと、ゲバラは新たな選択をしていく。そして衝撃の最期。密度濃く息もつかせぬ展開で、でも、程よくわかりやすい歴史ドラマになっている。

フィデルの大物感、アレイダの凛々しさ

 ゲバラ演じる専科の轟悠とがっぷり四つに組むことになるフィデル・カストロ、この役に挑戦したのが入団6年目、100期の風間柚乃だ。登場した瞬間、圧倒的な存在感に思わず息を飲んだ。怪我で休演を余儀なくされた月城かなとに代わってのキャスティングだったが、そんな事情などあっさり忘れさせてくれる大物ぶりだ。

 また、ゲバラの同志であり、後にパートナーとなるアレイダ・マルチには天紫珠李。男役から転向した天紫ならではの凛々しさが、役によくはまっている。

 だが、何より下級生に至るまでの、地に足のついた泥臭いお芝居に圧倒された。みんな日焼けした髭面の男が似合う。出演者の少ない公演だけに、主要な役の人もアンサンブルとして民衆に混じっていたりするのだが、その際の密かなこだわりも見どころだったりする。

個性的な役作りの集積が生み出すパワー

 今回、実在の人物が数多く登場するだけに、それをどのように料理してくれるのかという楽しみもある。革命家チームの中では、いつも陽気なエル・パトホ(千海華蘭)、革命成功のキーパーソンともいえる農民ギレルモ・ガルシア(輝月ゆうま)など芝居巧者が安定の活躍を見せる。いっぽうで、ゲバラに対して容易には心を許さないラミロ・バルデス(春海ゆう)、スペイン内戦の経験者である老練なバヨ爺さん(柊木絢斗)、ゲバラのかけがえのない友でもあったカミーロ・シエンフェゴス(蒼真せれん)などの若手の芝居も印象に残った。

 革命一派と対峙するのはバティスタ大統領(光月るう)。その本性を簡単には表に出さない、食えない男ぶりが憎々しい。そしてマフィアのマイヤー・ランスキー(朝霧真)の色悪ぶり。なお2人はゲバラ終焉の地ボリビアでも、処刑を告げるボリビア軍大佐セルニチ(光月)、そして実際に手を下す軍曹マリオ・テラン(朝霧)として違う顔を見せる。

 史実に基づいた硬派な場面が続くこの作品の中では、実在ではない人物たちが見せるタカラヅカ風味が効いた場面も貴重だ。大統領配下の将校、ルイス・ベルグネスを演じる礼華はるは、軍服姿も目を引きこの作品で株が上がりそう。ゲバラとアレイダが同志的な関係である分、ルイスとレイナ(晴音アキ)がこの作品のロマンスを担当しているといったところか。また、ゲバラに対して素直になれないミゲル(蓮つかさ)の葛藤はゲバラに対するひとつの見方として共感を呼ぶし、少年エリセオ(きよら羽龍)の無垢な可愛らしさはかえって哀しみを誘う。

 1959年に革命を成功させたキューバは、やがて米ソの冷戦に巻き込まれる。1962年、ソ連の提案によりミサイルがキューバに配備され、米ソは一触即発の状態となる。世にいうキューバ危機である。さて、世界中を緊迫させたこの一大事をどう見せるのかと思いきや、ニューヨークタイムズの新聞記者ハーバート・マシューズ(佳城葵)がこの重責を担った。滑舌の良いマシューズの語りだけでテンポよく終わらせる手法に面食らったが、本筋とは関係の薄い話でもあり、こういう見せ方もありかも知れないと思った。

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『タカラヅカ流世界史』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師、NHK文化センター講師。

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