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岩手・宮城と福島、被災地の書店の明暗

長岡義幸 フリーランス記者

 震災後、岩手や宮城、そして郷里である福島の被災書店の取材を継続し、その変転を見てきた。

 岩手や宮城では、津波で店を流され、街までが丸ごとなくなってしまったなか、行政が設置した仮設商店街で営業を続けたり、自ら仮設店舗を建てて再起を目指したり、店舗を失ったため外商専業に移行したり、必死に書店を存続しようと奮闘している人々がいた。なかには撤退した書店の代わりに、家業が印刷所だったなら似たような仕事ではないかと、ずぶの素人ながら、まわりから乞われて書店業に参入した人さえいる。

 それぞれの出会いは印象深い。

 会うといつも「はぁー」とため息をつく人、本設店舗に移行したにもかかわらず、「新店舗になれば売り上げがもとに戻ると思っていたけれど、見込み違いだった」と弱音を吐く人、本店が津波に襲われ、被害のなかった支店で営業を続けるも同じテナント内の大型スーパーが撤退したため「いまは前向きになれない」と語る人、「こんなに苦しい商売だとは思わなかった。隣の街の復興が進んでお客さんの流れも変わってしまった」と悩む人、ようやく書店を再建したものの「震災のときはまだ60代。70代になって景色が違って見える」と漏らす人、被災後7年近く持ちこたえたのに、「潮時だ」と、ついに閉店を決断してしまった人……。

 他方、いくつかの仮設店舗を転々としてようやく新店舗を立ち上げ、子どもも書店業に就き、「再建までの数年、やり遂げてみるとあっという間だった。これからが楽しみです」とポジティブな人、流された店舗の再建をあきらめるも、ショッピングセンター内に出店して売り上げを大きく伸ばし、「これからはスーパーの買い物のついでにうちに寄ってもらうのではなく、はじめからうちを目指してやってきてもらえるような書店になりたい」と将来の夢を語る人……。

避難解除後も復活できない福島の書店

釜石・桑畑書店/津波に呑まれた店舗(2013年10月撮影岩手県釜石・桑畑書店の津波に呑まれた店舗=2013年10月、筆者撮影

 なかでも岩手県釜石市の桑畑書店の再オープンは感慨深かった。2012年にはじめて出向いたときは、鉄骨が露わになった売り場面積70坪2階建ての旧店舗が無残な姿をさらしつつ、仮設商店街内の9坪の小さな売り場で営業していた。店主の桑畑眞一さんは、津波に流された店内から得意先の台帳を発見し、自転車で顧客めぐりをしたと振り返りながら、いずれは旧店舗の建物を生かして書店を再開するのだと希望を語っていた。桑畑さんの話は、被災者の聞き書き集『復興なんて、してません』(第三書館)にも掲載した。

 その後、大規模な競合店の出店に苦しんだり、旧店舗の土地を地主に返さなければならなくなって建物を取り壊したりと、逆風にも見舞われ、結局、以前と同じ場所で店を再開するという目標はかなわなかったけれども、17年夏、復興住宅内のテナントとして25坪の本設店舗を開店することができた。開店後、桑畑さんは「震災後も仕事を続け、全国のいろんな人と出会えました。ほんとうにすばらしい経験です。お金があっても得られることではありません」と語っていた。私もひとしお嬉しく思ったものだ。

桑畑書店の新店舗の入り口(2018年3月撮影桑畑書店の新店舗の入り口=2018年3月、筆者撮影

 これらの人々に接し、次々と閉店している他の地域の書店以上に困難な状況なのに、あえて被災地で書店を続けようとした意志に心を揺さぶられずにはいられなかった。悲喜こもごもではあるけれど、直接会って話を聞けたからこそ実感したことであった。

 ところが、福島の書店取材では、こうはいかなかった。強制避難区域で営業していた書店で避難解除後、もとの場所で復活したところはまだない。復興どころか、復旧の機会さえ奪われてしまったかのようだ。しかも、私自身、これら避難中の書店関係者とは、電話で話ができても、会って取材できた人はほとんどいない。

 現旧の強制避難区域内や強制避難区域を抱える自治体にかつてあった本屋を挙げてみると、南相馬市小高区の広文堂書店小高店、飯舘村の村営書店ほんの森いいたて、浪江町の郡書店、ほていや書店、くさか書店、マツバヤ書籍部、富岡町のブックス好文堂、菊地書店の8店舗になる。震災の起きる直前の数年間のうちに、小高区の愛真堂書店、双葉町の清寿堂書店、ブックス24、大熊町のアトムブックスなどがすでに閉店していた。葛尾村、川内村、楢葉町、田村市都路(旧都路村)には、少なくともこの30~40年、書店は存在していなかった。ご多分に漏れず、震災がなくても、この地域で書店を存続するのが厳しい状況にあったのは間違いない。

避難を強制された書店のその後

 では、避難を強制された書店はどうなったのか。

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