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原発事故 「被害」と「加害」に引き裂かれた私

50年の歴史を演劇「福島三部作」で問う

谷 賢一 劇作家・演出家・翻訳家

福島の悲鳴を刻んだ「第三部」

 第三部の大きなテーマは「分断」だ。

 これは私も実際に現地取材に通わなければ気づかなかったことだが、原発事故により福島県は細かく分断されてしまった。原発立地自治体である双葉町の男は家族と故郷を失い深く傷ついているが、その隣町に住む夫婦は原発事故を起こした双葉町のことを憎んでおり、さらに別の村に住む男は原発から30キロメートル以上離れているのに避難させられた自分たちが一番の被害者だと思っている。

 県民同士で憎み合い、嫉妬し合い、差別し合う様子がはっきりと描かれており、県外の人間が知らない福島の悲鳴が数多く台詞に刻まれている。これらは私が実際に福島県内を手広くフィールドワークして集めた言葉たちだから、どれもシンプルだがリアルで切れ味がある。

 なぜ今、福島三部作なのか?

 よく尋ねられる質問だが、私はこう答える。

 「今だからこそ」福島三部作なのだ。

 年月は我々の認識を変える。震災から8年の月日が経った今だからこそ、ようやく我々は生傷としてではなく歴史的事件の一つとして東北の大震災を振り返ることができるようになった。

 しかし同時に年月のために、我々は震災を忘れつつあるのも事実だ。首都圏ではもうほとんど話題にさえ上らない。先日の参議院議員選挙においても、原発問題は主だった争点にすらならなかった。しかし結局、原発問題について何の政治的結論も決着もついていないのに、なあなあにしたまま、ぬけぬけと「復興五輪」だなどと言い放って、お祭り騒ぎに向かっていくのは、全くもって無責任であり、原発事故の死者に対して礼を失した態度のように思えるのだ。

 「原発事故の死者」という言葉にギョッとした方もいるかもしれない。福島原発の事故で人は死ななかったのでは? 世間ではそう思われているが、そんなことはない。

 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』劇中の台詞(せりふ)を引用しよう。

「……あんたたちはもう忘れてるかもしんねけんちょ、福島でもう農業はできねえと悲観して、自殺した農家がいた。おらは死なねえ、こうして飲んだくれるだけだ、だけんちょ気持ちはよくわかる。娘と牛たちがいねかったら死んでたかもしんね。
 原発事故で、人は死んだんだ。自殺した農家。避難のストレスで死んだ老人たち。放射能っつわれていじめられた美月だって、下手したら死んでたかもしんね」

 原発事故の「災害関連死」、つまり上記の台詞にあるような形で直接・間接的に死に追いやられた人の数は1600人に上ると言われている。原発事故で人は死んだのだ。この事実はもっと多くの人に知られてよいだろうと思う。

 劇中にはこんな台詞も出てくる。

 「――正しく語るということは、部屋を整理することに似ている」

 正しく福島を語ることで原発に関する知識や情報を整理し、我々が今現在どんな場所に住んでいるのか見つめ直してみたいのだ。それは過去を振り返ることであると同時に、未来の我々の身の振り方を見つめることにも繋がる。

 3部作・計6時間と言えばたいそうな長編にも聞こえるが、50年にわたる福島と原発の歴史を一望できると思えば実にコンパクトにまとめた短編である。ぜひ劇場でこの「事件」に立ち会って頂きたい。

福島三部作拡大福島三部作の第一部『1961年:夜に昇る太陽』=田子和司氏撮影

劇団 DULL-COLORED POP
福島三部作 第一部『1961年:夜に昇る太陽』
      第二部『1986年:メビウスの輪』
      第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

東京

 池袋 東京芸術劇場シアターイースト
 2019年8月18日まで第三部上演
 23~28日  一~三部通し上演
 各部=前売り4200円、学生3500円、高校生2000円
 当日は4500円(一律)


大阪
 浪速区 インディペンデントシアター2nd
 8月31日~9月2日  一~三部通し上演
 各部=前売り3800円、学生3300円/当日は4500円
 通し券10000円(2日は通し券のみ販売)

福島
 いわき市 いわき芸術文化交流館アリオス 小劇場
 9月7、8日 第三部上演
 3000円、高校生以下1000円


筆者

谷 賢一

谷 賢一(たに・けんいち) 劇作家・演出家・翻訳家

1982年、福島県生まれ、千葉県柏市育ち。劇団DULL-COLORED POP主宰。明治大学と英国ケント大学で演劇学を学ぶ。2013年、翻訳・演出した『最後の精神分析』で第6回小田島雄志翻訳戯曲賞、文化庁芸術祭優秀賞を受賞。近作に、神奈川芸術劇場『三文オペラ』(上演台本・演出)、新国立劇場『白蟻の巣』(演出)、ホリプロ『わたしは真悟』(脚本)、東宝『死と乙女』(演出)、Bunkamura『PLUTO』(上演台本)など。脚本や演出補としてシルヴィウ・プルカレーテ、フィリップ・デュクフレら海外演出家とのコラボレーションも多い。

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