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井上ひさしと浅利慶太の「戦争」

舞台に託された声を聞き、死者と語る

山口宏子 朝日新聞記者

終戦から74年の夏、二つの舞台

井上ひさしと浅利慶太拡大井上ひさし
 井上ひさし(1934~2010)と浅利慶太(1933~2018)。二人の演劇人が遺した「戦争」をめぐる舞台『父と暮せば』と『ミュージカル李香蘭』が、終戦から74年の今夏、東京で相次いで上演された。

 一人は現代を代表する劇作家で、憲法を守る運動の旗頭。もう一人は、日本最大の劇団を率いた演出家であり、改憲に強い意欲を示す中曽根康弘元首相のブレーンも務めた人物。

 政治的な立場は対照的だが、作品からは「誤った未来を選択しないために、過去に学ばなくては」という同じ声が聞こえてきた。

井上ひさしと浅利慶太拡大稽古場での浅利慶太。左奥にあるのは「李香蘭」時代の山口淑子のポートレート
  二人はともに、戦争の時代に生まれ、敗戦で価値観が根こそぎひっくり返るのを少年の目で見てきた世代だ。舞台には、それぞれの語り方で、戦争の実相を語り継がなくてはという使命感がみなぎる。そして多くの命を奪う戦争の愚かさを見据え、考えるための「知」を伝えたいという、祈りにも似た願いが託されている。

 古来、演劇は「死者」と語り合う芸術でもある。劇中で死者たちが語る。世を去った作り手たちも、作品が上演されるたびに新たな命を得て、観客に語り続ける。

広島で生き残った娘の「父と暮せば」

井上ひさしと浅利慶太拡大『父と暮せば』の舞台=小崎紗織氏撮影

 井上が書いた『父と暮せば』は、被爆と敗戦から3年たった広島が舞台の父と娘の二人芝居だ。生き残ったことに負い目を抱き、「恋をしてはいけない。幸せになる資格はない」と思っている美津江のもとに、原爆で命を落とした父・竹造が「恋の応援団長」として現れる。

 1994年の初演から、井上が作った「こまつ座」が公演を重ねてきた。そのほか、リーディングなども含めて各地で広く上演されている。英語、ドイツ語、イタリア語、中国語、ロシア語などに翻訳され、映画化(黒木和雄監督、宮沢りえ、原田芳雄出演、2004年)もされた。

 この8月は俳優の野々村のんが主宰する「なないろ満月」が、寺十吾(じつなし・さとる)の演出、佐藤B作の竹造、野々村の美津江で上演した(7~12日、東京・下北沢の駅前劇場)。

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筆者

山口宏子

山口宏子(やまぐち・ひろこ) 朝日新聞記者

1983年朝日新聞社入社。東京、西部(福岡)、大阪の各本社で、演劇を中心に文化ニュース、批評などを担当。演劇担当の編集委員、文化・メディア担当の論説委員も。武蔵野美術大学非常勤講師。共著に『蜷川幸雄の仕事』(新潮社)。

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