眺めていると、つい頰がゆるんでしまう。そんな絵が並んだ府中市美術館(東京都)の展覧会「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」、略して「へそ展」がこの春、話題を集めた。見る者を圧倒する美や高い技術を誇るだけではない、ゆるさやおおらかさのある絵画には、私たちの心をとらえる不思議な力があるらしい。この夏、東京・日本橋の三井記念美術館で開催中の特別展「日本の素朴絵 ― ゆるい、かわいい、たのしい美術 ― 」でも、共通した魅力を感じることができる。そんな「もう一つの美術の楽しみ」を、「へそ展」を企画した金子信久さんが紹介する。
まるで文化祭? 手作りだった「へそ展」

「へそまがり日本美術」の図録
「へそ展」は、2000年に府中市美術館が開館して以来、最多の入場者があった。講談社から刊行された
図録兼書籍は、会期中に3刷りとなり、ありがたいことに閉幕して3カ月たった今も売れ続けている。
この展覧会は、手作りの部分も多かった。
東京都文京区の養源寺に伝わる徳川家綱の掛軸「鶏図」を拝借した時には、箱がなかったので段ボールで作り、同僚と電車で運んだ。徳川幕府、四代将軍の絵になぜ箱がないのか。第二次大戦中、いざという時に大切な寺宝を持ち出すために、できるだけかさ張らないよう、当時の住職が箱を処分せざるを得なかったからである。

徳川家綱が描いた「鶏図」(養源寺蔵)。箱のない状態で保存されていた
昨年の12月に講談社で開催した展覧会の記者発表では、出品作品のいくつかを実際に見ていただこうと思い、会場に展示することにした。だが、うまい具合に掛軸を掛けられる壁がない。そこで、同社の写真部から、急きょ、撮影の背景に使う大きな黒い紙を融通してもらって、社名入りのパネルの上に貼り、作品が映える「黒い壁」を作った。スタッフ総出で汗をかきながらの作業は、はたから見れば、まったくもって文化祭の準備のようだったに違いない。

急きょ手作りした壁に絵を掛けて紹介した「へそ展」の記者発表