2019年08月20日
三浦百恵さんの著書『時間(とき)の花束 Bouquet du temps――幸せな出逢いに包まれて』(日本ヴォーグ社)の初版10万部が完売したと、ネットニュースが報じていた。販売前に予約をし、即入手、完売に貢献した1人である。百恵ファンとしては、当然のことだ。
感想を一言で言うなら、すごく抑制的な本だった。目立たない、控えめでいく。その意思が伝わってきた。
ところが帯をはずし、カバーだけにすると、写真はぐっと小さくなる。ちょうどトランプの札くらいのサイズ。帯は出版社によるCMで、著書の思いはトランプ1枚分。わかってはいるが、小さ過ぎる――。
あ、ファンとしての心の叫びを書いてしまった。そう、百恵さん、控えめすぎる。叫んでくれとは言わないが、心情くらい吐露してくれてもいいではないか。それを期待してたのに――。あ、また心の叫びを書いてしまった。
10年以上前から、百恵さんはキルト作品を対外的に発表している。東京ドームで毎年開かれる「東京国際キルトフェスティバル」では、師であるキルト作家・鷲沢玲子さんの作品と並び、百恵さんの作品が飾られていた。それを大勢の人が撮影するのは、もういつものフェスティバルでの光景になっていた。
だから満を持しての出版ではないか、と少し期待していた。作品への自信が出版につながったのなら、作品を雄弁に語らせたいという作家の思いがあるはずだ。となれば、そこに本音というか心情というか、引退後の百恵さんが滲んでくるのではないか、と。百恵ちゃんを探して、ページをめくり続けた。
だが百恵さん、ずっと温度が一定だった。チクチクと、ひと針ずつ進めていた。妻として、母として、針のようにチクチクと着実に歩んでいた。脱線は決してしない。その証が、キルトの整った縫い目。それを確認する本だった。
作品はどれもこれも、とてもきれいだった。その丁寧な仕上がりに「一糸乱れず」とはまさにこのこと、と思った。知り合いに手作り本のベテラン編集者がいるのだが、彼女は「すごく真面目な人ね。いろいろな手法に挑戦して、確かに技術を上げている良い生徒」と感想を述べていた。
文章も同様だ。本人の書き下ろしも、インタビューした編集者がまとめた文も、どちらも教室の隅でじっと勉強している、優等生の答案。そんな印象を受けた。
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