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三浦百恵さんのキルト集『時間の花束』は叫ばない

矢部万紀子 コラムニスト

百恵さんの針仕事も 春日部でキルト展2015年2月拡大百恵さんの作品も展示されたキルト展=2015年2月、埼玉・春日部

百恵さんは優等生的に着実に歩んでいた

 10年以上前から、百恵さんはキルト作品を対外的に発表している。東京ドームで毎年開かれる「東京国際キルトフェスティバル」では、師であるキルト作家・鷲沢玲子さんの作品と並び、百恵さんの作品が飾られていた。それを大勢の人が撮影するのは、もういつものフェスティバルでの光景になっていた。

 だから満を持しての出版ではないか、と少し期待していた。作品への自信が出版につながったのなら、作品を雄弁に語らせたいという作家の思いがあるはずだ。となれば、そこに本音というか心情というか、引退後の百恵さんが滲んでくるのではないか、と。百恵ちゃんを探して、ページをめくり続けた。

 だが百恵さん、ずっと温度が一定だった。チクチクと、ひと針ずつ進めていた。妻として、母として、針のようにチクチクと着実に歩んでいた。脱線は決してしない。その証が、キルトの整った縫い目。それを確認する本だった。

 作品はどれもこれも、とてもきれいだった。その丁寧な仕上がりに「一糸乱れず」とはまさにこのこと、と思った。知り合いに手作り本のベテラン編集者がいるのだが、彼女は「すごく真面目な人ね。いろいろな手法に挑戦して、確かに技術を上げている良い生徒」と感想を述べていた。

 文章も同様だ。本人の書き下ろしも、インタビューした編集者がまとめた文も、どちらも教室の隅でじっと勉強している、優等生の答案。そんな印象を受けた。 ・・・ログインして読む
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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長をつとめた後、退社、フリーランスに。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)。

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